好きになったのはいつ?

仲花19

「ねえ、ねえ? 花ちゃんはいつ仲謀のことを好きになったの?」
「えっ?」
いつもの女性陣でのお茶会の席で、無邪気に尋ねられた大喬の問いに、花は目を丸くした。

「いつって……」
「仲謀はわかりやすかったけど、花ちゃんがね~」
「わからないんだよね~」

にやりと笑う姉妹に到底ごまかしは効かなさそうで、花はうーんと考える。

(仲謀を……いつ好きになったんだろう?)

孔明について行った柴桑で初めて会った時は、金髪で颯爽と困っているところを助けてくれた姿に、王子様みたいだと思ったけれど。

(この時はまだ、好きとかはなかったよね)

王子様みたいと思ったのも束の間、態度は偉そうで感じも悪い。
それが第一印象だった。

(篭絡だとか、貧相だとか、ひどいことばっか言ってたし)

今思い出してもやっぱりひどいと思うのは仕方ないだろう。
それでも、突然過去に飛ばされた時、足を挫いた花を背負ってくれたり、雨に濡れた花を気遣い、自分も寒いのに上着を貸してくれたり、他にも文句を言いつつも花をいつも助けてくれた。

(授けた策が思い通りにならなくて打ちひしがれた時も、励まして、まだできることがあるって背中を押してくれた……。
元の世界に戻れるか不安になった時も、もし戻れなかったら一緒にいてくれると笑ってくれたんだよね)

離れないようにと握ってくれた手があたたかくて、大丈夫だと、そう安心させてくれた。
俺様で、偉そうで、怒ってばかりで……けれども本当は揚州を、自分の周りにいる人たちを大切に思っている、とても優しい人。

(そういえば、仲謀はいつから私のこと、好きだったんだろう?)

好きだと言われたのは、大喬小喬の悪戯が引き起こした事故の時。
ぶつかっただけ。
確かにそうだけれど、花にとっては初めて異性と交わしたキスだった。
あれはただの事故で、仲謀にとってはきっとどうでもいいこと。
それでも唇に残る感触が切なくて……知らず涙がこぼれ落ちた。

「花さん?」
「あ、ごめん。え、と……わからない、かな」
「え~?」
「花ちゃん、仲謀のこと好きじゃないの?」
「ち、違います。好きじゃないとかじゃなくて、いつだかがわからないんです」

仲謀のことは好きだ。
今なら好きか嫌いか問われれば、はっきり好きだと言える。
けれども、好きになったのはいつからかと問われたら、それは花にもよくわからなかった。

「仲謀可哀想」
「あんなに花ちゃんのこと、好きなのにね」
「あの……仲謀はいつからなんでしょうか?」
「兄上ですか?」
「うん。告白してくれた時、なのかな?」
「違うよ。ねえ、お姉ちゃん?」
「うん。仲謀はもっと早いよね~」
「………おい」
「仲謀、あんなにわかりやすかったのに、花ちゃんにちっとも伝わってなかったんだ」
「仲謀、可哀想~」
「うるせえっ!」
「仲謀!?」

思いがけない怒声に驚き振り返れば、そこには顔を赤らめ怒っている仲謀。

「兄上、どうしてこちらに?」
「俺がこいつの部屋に来るのがおかしいかよ」
「そうではなく、お仕事はもう終わられたのですか?」
「……休憩だ」
「さぼりだ」
「仲謀さぼり~」
「うるさい! あっちいってろ!」
「私たちの方が先にいたのに、仲謀横暴!」
「横暴!」
「大喬殿小喬殿、行きましょう。では花さん、兄上、失礼します」
「あ、うん」
「…………」

ブーイングの姉妹と尚香を見送ると、花は不機嫌全開の仲謀を見る。

「あの、お茶飲む?淹れるよ?」
「いらねえ」

端的な、突き放すような物言いは、仲謀が不貞腐れている時。
どうしたら機嫌を直せるかと考えていると、仲謀がじろりと花を睨みつけた。

「お前、俺をいつから好きだったか、わからないのかよ」
「え? あ、うん」
「……………」
「……ごめん」
「謝るな。余計傷つく」

話を聞かれていたことが気まずくて、何と言っていいかわからず黙り込むと、沈黙が流れた。

「……俺が告白した時」

「え?」

「俺が、お前に好きだって言った時、お前も好きだって言っただろ?」

「嫌いじゃないって言ったんだよ。好きってことにしとけって言ったのは、仲謀だよ」

「なんだよ。だったら好きじゃないのかよ」

「そんなことないよ」

「だったら……っ」
言いかけて、口をつぐんだ仲謀は苛ただしげに舌打つ。

「でも、今ははっきり言えるよ。仲謀が好きだって」
「………っ、だから、なんでお前はそうやって――」
「え? ……うわっ! ち、仲謀?」
「――可愛いこと言うお前が悪いんだからな」

抱き寄せられて、顎を掴まれて……重なった唇。

「あの、仲謀? 外、暗くなってきたよ?」
「……だからなんだよ」
「えっと……前に、男と女が二人でいるのはダメだって言ってたから」
「それは、婚儀を上げる前だろうが!」

さりげなく腕の中から逃げようとする花を強く抱き寄せると、もう一度唇を求めて。

「……我慢するのは婚儀までだって言っただろ」

これ以上の抗議は聞かないとばかりに、深く唇を貪った。
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