あしたの太陽

仲花18

三国を巡る旅を終えて、褒美に何を望むか陛下に問われ、仲謀が選んだのは城下街に市を立てること。
京では仲謀はすぐに女性達に囲まれてしまうし、そもそも君主である彼は多忙で、市を二人で回るというのは立場的にも難しい。
だから、こうして街を二人で歩くのは本当に貴重なことで、花の頬が知らず緩む。

「なんだよ。そんなに楽しいのか?」

「楽しいのもそうだけど、こうして仲謀と一緒に街を見て回れるのが嬉しくて」

「……っ、だから、お前はどうしてそういうことを……っ」

「?」

仲謀の顔が赤く染まり、握られた手の力が強くなったことに首を傾げるが、なんでもねえよ! と顔を背けられ、花はそれ以上の詮索をやめた。 当たり前のように握られた手がこそばゆくて、でも嬉しかった。

仲謀と黄巾党の時代に飛ばされた時は、いつも少し駆けるように花は仲謀の後を歩いていた。
あの頃は仲謀も花のことなど気にかけず自分のペースで歩いていたから、そもそもコンパスの違いから花は必然急ぎ足でついていかざるえなかった。
けれども今は、こうして手を取り、花のペースに合わせてくれる。
そんな仲謀の優しさと、自然と手を繋いで歩く自分たちの関係が嬉しくて笑みが浮かんでくる。

「ほら、あそこに肉餅があるぞ。どうせ蜜漬けだけじゃ足りないんだろ。食うか?」

「うん!」

「あんまり食べ過ぎると豚になるぞ」

「う……女の子にそういうこと言うのはデリカシーが足りないよ」

「でりかしぃ? なんだよそれ?」

「……っ、なんでもない。だったら、仲謀と半分こにするよ」

「おま……っ。……いい。じゃあ1個でいいんだな?」

「うん。ありがとう」

仲謀が何に照れているのかわからず、無邪気に頷く花に、相も変わらず振り回されていることを自覚するが、それも構わないと思ってしまうのは惚れた弱みだとわかっているから、仲謀は諦念の体で店先で餅を買う。

「ん」
「じゃあ、半分にするね」
「あー」
「え?」
「だから、半分食わせるんだろ」
「さ、さっきそれだと味がわからないって言ったよ」
「は、半分に切ったら汁が垂れるだろ」
「だったら仲謀が先に食べていいよ」
「あー」
「だから」
「あーん!」

頑なに受け取ろうとしない仲謀に、花は顔を赤らめながら肉餅を彼の口元へと差し出した。
食む振動が指に伝わり、自然と視線は仲謀の口元に向いて。
無性に恥ずかしくて、早く食べて欲しいと願ってしまう。

「……何見てんだよ。早く食べたいのか?」
「う、ううん」
「変な奴」

散々人のことは鈍いというくせに、こういうところは仲謀だって鈍いじゃないと思うが、それを口にするのも恥ずかしく、元はといえば自分が蒔いた種だと思うと文句も言えなかった。

「何かほしいものはないのかよ」

「え? うーん、特にはないかな……あ」

「なんだよ。何かあったのか?」

「今回の騒ぎが起こる前に、仲謀とお揃いで使えるものを探してたでしょ? 結局あの時買えなかったから、ここで探してみてもいいかな?」

「あ、ああ。そうだな。ささやかなものがいいとか言ってたよな」

「うん。――あ、これはどうかな?」
花が指さす先には、小さな玉の飾りが並んでいた。

「こんなんでいいのかよ」

「うん。あんまり仰々しいのも気が引けちゃうし。これだったら仲謀が使ってもおかしくないよね?」

「薄桃とかじゃなくて、その色でいいのか?」

「うん。色違いもいいかなって思ったけど、それはストラップがあるし、どうせならお揃いがいいなって」

「……っ。これを」

「へい。まいど!」

「あ、仲謀……」

「自分で買うとかいうなよ? たまには素直に受け取れってんだよ……」

「?」

「ほら、まだ見て回るんだろ? あんまりのんびりしてると日が暮れちまうぞ」

さっさと会計を済ませた仲謀に、花はありがとうとお礼を言うと、手を引かれるまま市を歩く。
一時は仲謀の嫁になる覚悟を問われ、戸惑い、悩んだりもしたけれど、自分の想いと仲謀の想いを確かめ、選んだ彼の隣で共に並び、歩き続ける未来。
そのつながりを繋いだ手に感じて、花は改めて今の幸せを噛みしめた。
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