「結婚記念日?」
仲謀の問いかけに、こくりと頷く。
「この前のはバレンタインデー…だったか? いろんな行事があるんだな」
「バレンタインデーは全体向けだけど、結婚記念日は個人それぞれだよ」
「それが今日の夕餉の理由か」
「……ごめん」
仲謀がため息をつくのも仕方ない。
テーブルに並んだ無残な料理。
それらは花が作ったものだった。
(うう……もっとちゃんとお母さんの手伝いしとくんだった……)
あちらにいた頃は母が作ったものを食べるばかりで、料理といえば学校の家庭科実習でやった程度。
キッチンからして勝手の違うこの世界で花が料理を作ること自体無謀なことだった。
「その……ちゃんと料理長さんが作ってくれたのもあるから、これは残しても……」
「食べる」
「仲謀?」
見た目にも美味しそうとはいえない料理に箸を持つと、仲謀は皿に取って口に運ぶ。
「う……っ」
「ちゅ、仲謀? どうしよう……お水? お医者さんの方がいいかな……」
口にするや動きの止まった仲謀に花は慌てるが、ちげえよと腕を掴まれ彼を見た。
「食べてみろよ」
「え?」
「ほら」
相手に食べさせてしまった手前、嫌だとも言えず、花は仕方なしに料理を一口食べてみる。
「……ん?」
形は悪い。色も悪い。
けれども見た目に反して味は悪くなく、花はきょとんと仲謀を見た。
「なにきょとんとしてんだよ」
「だって……予想に反してたから」
「俺もどれだけひどい料理かと構えてたんだがうまいだろ?」
「……うん」
ニッと笑われて、進む箸に緩む頬。
結婚記念日を祝う習慣などないこの世界で、それでも自分にとっては大切なこの日をいつも通りにしたくなくて作った料理を、美味しそうに仲謀が食べてくれる。
そのことが嬉しくて、花の顔がへにゃりと崩れる。
「お前、結構料理うまいんだな」
「全然だけど、でも仲謀が喜んでくれるなら頑張るよ」
初めて作った手料理を、おいしいと食べてもらえる。
それはとても幸せで、嬉しくて、花の心を温かくする。
「ほら、冷めないうちに食べるぞ」
「うん」
促されて椅子に座ると、笑いあいながら食事を食べる。
一年前の今日、花はこの世界で仲謀と結婚した。
その初夜に風邪を引いて寝こんでしまい、あらぬ噂を流され、仲謀には散々な思いをさせてしまったけれど、花は仲謀と結婚してよかったと本当に思う。
初めの出会いは最悪だった。
それから仲謀と共に過ごしていく中で、彼の優しさや孫家当主としての責任、父や兄への想いを感じ、見て、花にとってかけがえのない人になっていった。
「仲謀」
「なんだよ?」
「好きだよ」
「……っ! だから、お前はどうしてそういうことを何でもなく言うんだよ……っ」
「何でもなくじゃないよ。好きだなって思ったから言ったんだよ」
「………っ、さっさと食べるぞ!」
「? うん」
顔を真っ赤に染めながら、掻きこむようにご飯を食べる仲謀に、花は首を傾げながら箸を進める。
一年前、花は仲謀と夫婦になった。
あの時と変わらない仲謀への想いを抱きながら、花は二人の大切な記念日を愛しい人と過ごした。
もちろんその夜はあの日とは違い、夫婦で過ごした。