「はぁ……」
息を吐くと白く見える状態に、花は肩をふるりと震わせる。
「朝、寒くなったね」
「ああ、冬が近づいてきたんだろう」
「仲謀は暖かくていいよね」
「は?」
「そのもふもふ。夏は暑そうだなって思ってたけど、冬は暖かくていいよね」
花が指差すのは、仲謀の纏ったファー付きの上着。
孫家のものが代々身につける衣で、仲謀の母も尚香も着ているものだった。
「ちょっとこっちにこい」
「なに?」
「いいからこい!」
仲謀に呼ばれて近寄れば、差し出されたのは淡い薄紅の衣。
その襟元には仲謀と同じく、ファーが施されていた。
「仲謀?」
「お前のだ」
「え?」
「だから、お前のだって言ってんだよっ」
「だ、だって、これは孫家のものだけじゃ……」
「……お前、俺と婚儀を挙げたこと、忘れたとか言わねえよな?」
「あ」
今気づいた体の彼女に、苛立つ心を必死に堪えて花を見る。
「着てみろよ」
「え? 今すぐ?」
「ああ」
仲謀に急かされて、花は急ぎいつも着ている羽織物を脱ぐと、新しい衣に袖を通す。
「これは孫家のものとなったお前のものだ。これからはそれを着ろよ」
「……うん!」
顔に触れるファーが柔らかくて暖かい。
でもそれ以上に、仲謀の【家族】と認められたことが嬉しい。
「えへへ……」
「なんだよ、気味悪いやつだな」
「嬉しいんだよ」
「……っ、そ、そうか」
「仲謀? 顔、赤いよ?」
「うるさいっ! なんでもねえ!」
「もう、仲謀はすぐ怒るんだから……そういうところは直した方がいいよ?」
「……お前もその鈍感さをなんとかしろっての」
「? 何か言った?」
「なんでもねえ」
ほふほふと嬉しそうにファーに顔を埋める花に、仲謀は真っ赤な顔を隠すように手で覆いながらふっと微笑んだ。