ポッキー☆ぽっきん

仲花11

「「仲謀ー!」」
いつものごとく駆けこんできた大小姉妹に、仲謀がきりりと眉をつりあげた。

「大小、何度も言わせんじゃねえ! ここはお前らの遊び場じゃねえんだぞ!!」
「今日はポッキーの日なんだって」
「仲謀、ポッキー頂戴!」
「……は? ポッキー?」

意味不明な単語に訝しがると、実はよくわかっていないらしい大小姉妹も首を傾げた。

「なんかねー、細くて甘いお菓子なんだって」
「恋人が両端から食べてちゅうする日なんだって」
「……なんだと?」
小喬の言葉に驚くと、ガッと彼女を見つめる。

「おい! そのポッキー、どう作るか花から聞いたか?」

「ううん。花ちゃんもどう作ればいいのか分からないみたい」

「ねー仲謀ー作らせてー」

相変わらずの無茶ぶりに、しかし聞き流すことも出来ず仲謀は立ちあがった。

「仲謀様? まだ執務は終わっておりませんが?」
「すぐ戻る」
「ふぉっふぉっふぉっ」
いつも通り鷹揚な笑みで見送る子敬に、仲謀はまっすぐ厨房へと向かった。

「おい」
「……え? 仲謀様!?」
「悪いがちょっと作って欲しいものがある」
「は、はい。なんでしょう」

突然現れた君主に料理人たちは慌てるが、仲謀の要望にふんふんと相槌を打つとわかりましたと頷いた。
そうしてしばらくの後、運ばれてきたのは細長い菓子。

「これでよろしいでしょうか?」
「ああ。手間をかけさせて悪かったな」
「いえ。では失礼します」

頭を垂れて退出する様を見送ると、仲謀はもうそろそろかと時を計る。
仲謀の仕事が立て込むために、少しでも花と一緒にいられる時間を作ろうと、出来る限りお茶を共に取るようにしていた。
今日もそろそろだろうと、その時間まで執務に勤しむ。
そうしている間に時間はあっという間に過ぎて、トントン、と戸を叩く音が耳に届いた。

「仲謀?いい?」
「ああ」
ひょこりと顔を出した花に執務の手を止めると、机の傍らに置かれた菓子を見つめた。

「花。今日はポッキーの日とかいうんだろ?」

「あ、大喬さんたちに聞いた? うん、11月11日の数字に見立ててポッキーの日って呼ばれてるの」

「その、ポッキーの日はポッキーを食すんだろ?」

「別に食べなきゃいけないわけじゃないよ」

「はあ?」

「え?」
思いがけない返答に、仲謀は驚き花を見た。

「ちょっと待て。ポッキーの日は恋人が両端から食べて、その……く、口づける日じゃないのかよ?」

「そ、それは確かにそういう遊びもあるけど、そうしなきゃいけないわけじゃないよ」

「ガセかよ……」
がくりとうなだれる仲謀に、花は慰めようとして机の上に置かれたポッキーまがいを見つけた。

「え? これ、ポッキー?」

「! その、大小が作れってうるさいから作らせたんだよ」

「そうなんだ。わぁ、すごいね。見た目はポッキーそっくりだよ」
懐かしそうにポッキーを見る花に、仲謀は顔を赤らめると手にとってずいっと差し出した。

「え?」
「……やっても構わないんだろ?」
「そ、それはそう、だけど……」
「……嫌なのかよ」
「そ、そんなことない、よ?」

明らかな動揺に、しかし仲謀も引けず、ポッキーもどきを口にくわえるとずいっと花につきだした。

「ん」
「本当にやるの?」
「ん!」

眉を下げるが頑として引かない仲謀に、花は仕方なしに反対側を口にくわえた。
ポリ……ポリ。
一口、二口と食べ進むにつれ、近づく距離。

「~~~~~~」
あと三口ほどというところで花が離そうとした瞬間、けたたましい音と共に扉が開かれ、大小姉妹が飛び込んできた。

「あーポッキー!」
「仲謀ずるい!」
どどど……と突進してくる大小姉妹に、折れるポッキー。

「!」
「あーあ」
「……お前ら~…!」
あと少しというところをいつものように邪魔されて、仲謀の怒りが沸点に達した。

「今日こそは勘弁出来ねえ! 大小、こい!」
「やだよー」
「仲謀が一人占めするのが悪いんだもん」

きゃーきゃーと楽しげに逃げ回る大小姉妹に、怒りの形相で追いかけ回す仲謀。
その姿を見ながら、花は赤い顔で残ったポッキーまがいを噛み砕いた。
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