「「仲謀ー!」」
いつものごとく駆けこんできた大小姉妹に、仲謀がきりりと眉をつりあげた。
「大小、何度も言わせんじゃねえ! ここはお前らの遊び場じゃねえんだぞ!!」
「今日はポッキーの日なんだって」
「仲謀、ポッキー頂戴!」
「……は? ポッキー?」
意味不明な単語に訝しがると、実はよくわかっていないらしい大小姉妹も首を傾げた。
「なんかねー、細くて甘いお菓子なんだって」
「恋人が両端から食べてちゅうする日なんだって」
「……なんだと?」
小喬の言葉に驚くと、ガッと彼女を見つめる。
「おい! そのポッキー、どう作るか花から聞いたか?」
「ううん。花ちゃんもどう作ればいいのか分からないみたい」
「ねー仲謀ー作らせてー」
相変わらずの無茶ぶりに、しかし聞き流すことも出来ず仲謀は立ちあがった。
「仲謀様? まだ執務は終わっておりませんが?」
「すぐ戻る」
「ふぉっふぉっふぉっ」
いつも通り鷹揚な笑みで見送る子敬に、仲謀はまっすぐ厨房へと向かった。
「おい」
「……え? 仲謀様!?」
「悪いがちょっと作って欲しいものがある」
「は、はい。なんでしょう」
突然現れた君主に料理人たちは慌てるが、仲謀の要望にふんふんと相槌を打つとわかりましたと頷いた。
そうしてしばらくの後、運ばれてきたのは細長い菓子。
「これでよろしいでしょうか?」
「ああ。手間をかけさせて悪かったな」
「いえ。では失礼します」
頭を垂れて退出する様を見送ると、仲謀はもうそろそろかと時を計る。
仲謀の仕事が立て込むために、少しでも花と一緒にいられる時間を作ろうと、出来る限りお茶を共に取るようにしていた。
今日もそろそろだろうと、その時間まで執務に勤しむ。
そうしている間に時間はあっという間に過ぎて、トントン、と戸を叩く音が耳に届いた。
「仲謀?いい?」
「ああ」
ひょこりと顔を出した花に執務の手を止めると、机の傍らに置かれた菓子を見つめた。
「花。今日はポッキーの日とかいうんだろ?」
「あ、大喬さんたちに聞いた? うん、11月11日の数字に見立ててポッキーの日って呼ばれてるの」
「その、ポッキーの日はポッキーを食すんだろ?」
「別に食べなきゃいけないわけじゃないよ」
「はあ?」
「え?」
思いがけない返答に、仲謀は驚き花を見た。
「ちょっと待て。ポッキーの日は恋人が両端から食べて、その……く、口づける日じゃないのかよ?」
「そ、それは確かにそういう遊びもあるけど、そうしなきゃいけないわけじゃないよ」
「ガセかよ……」
がくりとうなだれる仲謀に、花は慰めようとして机の上に置かれたポッキーまがいを見つけた。
「え? これ、ポッキー?」
「! その、大小が作れってうるさいから作らせたんだよ」
「そうなんだ。わぁ、すごいね。見た目はポッキーそっくりだよ」
懐かしそうにポッキーを見る花に、仲謀は顔を赤らめると手にとってずいっと差し出した。
「え?」
「……やっても構わないんだろ?」
「そ、それはそう、だけど……」
「……嫌なのかよ」
「そ、そんなことない、よ?」
明らかな動揺に、しかし仲謀も引けず、ポッキーもどきを口にくわえるとずいっと花につきだした。
「ん」
「本当にやるの?」
「ん!」
眉を下げるが頑として引かない仲謀に、花は仕方なしに反対側を口にくわえた。
ポリ……ポリ。
一口、二口と食べ進むにつれ、近づく距離。
「~~~~~~」
あと三口ほどというところで花が離そうとした瞬間、けたたましい音と共に扉が開かれ、大小姉妹が飛び込んできた。
「あーポッキー!」
「仲謀ずるい!」
どどど……と突進してくる大小姉妹に、折れるポッキー。
「!」
「あーあ」
「……お前ら~…!」
あと少しというところをいつものように邪魔されて、仲謀の怒りが沸点に達した。
「今日こそは勘弁出来ねえ! 大小、こい!」
「やだよー」
「仲謀が一人占めするのが悪いんだもん」
きゃーきゃーと楽しげに逃げ回る大小姉妹に、怒りの形相で追いかけ回す仲謀。
その姿を見ながら、花は赤い顔で残ったポッキーまがいを噛み砕いた。