ハロウィン

春芽20

「トリックオアトリート!」

勢いよく決まり文句を口にすると、お茶を飲んでいた春草さんと鴎外さんが目を見開いた。

「ねえ。君、何でそんな格好をしてるの」
「え? この服、ヘンですか?」
「ヘンだし、破廉恥だろ」
「は、破廉恥……」
「こら、春草。女性に軽々しくそんなことを言うものではないよ。今日はハロウィンなのだから、どんな仮装をしてもいいではないか。それにしても子リスちゃんがハロウィンを知っていたとは興味深い」
「これはチャーリーさんが用意したんですけど……そんなにヘンですか?」
「ヘンだよ」
「いやいや、とても僕好みだ」

前衛的なものが好みだと春草さんが言っていたように、たぶんまだこの時代ではメジャーなイベントでないハロウィンにも全く動じない鴎外さんは、ではと立ち上がって箱へ手を伸ばす。
その箱を見た瞬間、私は慌てて鴎外さんに駆け寄った。

「鴎外さん、もしかしてそれは……」
「うむ、いかにもこれは小豆堂の饅頭だ。これの存在を見抜くとは、さすがは子リスちゃんだ。どれ、早速饅頭茶漬けを……」
「ま、待って下さい! ハロウィンにもらうのはお菓子ですから、饅頭茶漬けは無効です」
「なんと……! こんな美味しいものが無効だとは、なんと無情な遊びなのだ」
「そ、それなら饅頭をそのままいただければ……」
「いや、この最高の饅頭をそのままなど許されないのだよ」

饅頭茶漬けに特別な思い入れがあるらしい鴎外さんに、無理矢理手元から饅頭を奪い茶漬けになるのを阻止すると、もぐもぐと饅頭を飲み込みながら春草さんを見る。

「春草さんはお菓子を持っていますか?」
「ないよ。君じゃないんだから」
「はあ。なら悪戯ですね」

若干気になる言い回しも聞き流して宣言すると、ふうとため息をつかれて。好きにすれば?と見返される。

「なら……ちょっと失礼します」
「な……っ」

近寄ると、容赦なく首や脇をくすぐる。
結構くすぐったがりなのか、逃げようとする春草さんを執拗に攻め続けると、パシリと手を捕らえられてじとりと睨まれた。

「とりっくおあとりーと、だっけ? 君はお菓子を持ってるの? ないよね?」
「え、えーと……ない、です」
「そう。だったら悪戯していいんだろ」

完全に目が据わった春草さんは、言質を取ると私がやったようにくすぐってくる。

「あは、あははっ、ちょっ……ギブギブ!」

容赦ないくすぐりに笑い転げて息も絶え絶えになったのを見て満足したのか、ようやく手を離してくれた春草さんにふぅと大きく息を吐く。

「ちょ……こっち来て!」
「え? 春草さん?」

焦った声音で手を取ると、階段を駆け上がる勢いで二階へ連れていかれて、たどり着いた春草さんの部屋に入った瞬間、ドアに背を押し付けられる。

「君、どういうつもり?」
「え?」
「そんな格好で鴎外さんの前に出るなんて」

怒りを滲ませる春草さんに、恐る恐る視線を自分に向けると、オフショルダーのワンピースの肩は大きくはだけていて、胸元もかなり露になってしまっていた。

「これは、さっきくすぐられて暴れたから……っ」
「そもそも君がそんな破廉恥な格好をしてるのが悪いんだろ」
「う……」
そう言われてしまうと反論出来なくて黙ると、肩に唇が押し付けられて。

「春草さん!?」
「煽ったのは君だろ」

抗議を一切聞き入れずに露になった肌に口づけが降り注いで、春草さんの気がすむまで甘く囀ずらされたのだった。

20191101
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