告白

春芽17

「ねえ、君。いつまで続けるつもり?」
「え?」

問いかけると何を?とまるで問いの意を解してない反応に苛立ちが増す。

「君がこの鹿鳴館高校に編入したのは、『牛丼の君』を探すためだろ? だったらもう見つけたんだから、ここにいる必要ないだろ」
「それは……」

ずっと思っていたことを指摘すると口ごもった彼女に、春草は先程の出来事を思い出す。
この前の時間は体育の授業でサッカーをしたのだが、女の体力で小競り合いに付き合うのは大変なのだろう、足をもつれさせた彼女が傍にいた大観を巻き込み倒れたのだ。
心配して駆け寄ると、キスするほどに顔が近い二人がいて、咄嗟に大観の肩に手をかけると後ろに放って令に手を差し出す。

「何やってるんだか……」
「す、すみません」
「先生、保健室に行ってきます」
「え? あの、春草くん?」
「足。擦りむいてる」

怪我の程度は酷くないものの、膝からは血が滲んでいたため、教師の了承を得てその手を引く。
保健室に着くやドアを閉めると、ギロリと彼女を睨んだ。
「君、もう少し考えたら? 男に混じってサッカーなんてそもそも無理に決まってるだろ」
「う……でも……」
「それにあんなに接触して大観にバレたらどうするつもり? 他の奴でも同じだから」

次々指摘すると眉を下げる彼女に、はぁと息を吐き出すと消毒薬を棚から出す。

「ここに座って足見せて」 「は、はい」

言われた通りに座ってジャージの裾を捲り上げる彼女に、綿に染み込ませた消毒薬をつける。

「……ッ」
「痛むのは我慢しなよ。化膿したくないだろ」
「はい……」

それでも痛そうに表情を歪める姿に、何となく意地悪な想いがわきあがって、少し強めに綿を傷口に押しつける。

「春草くん、痛いですっ」
「我慢しなって言ったよね。君って堪えがないよね」
「うう……」

眦にうっすら滲んだ涙に、これ以上は酷かと消毒をやめると絆創膏をはった。

「ねえ、君。いつまで続けるつもり?」
「え?」
「君がこの鹿鳴館高校に編入したのは、『牛丼の君』を探すためだろ? だったらもう見つけたんだから、ここにいる必要ないだろ」
「それは……」

そもそも女の子が男子校に紛れ込むこと事態があり得ないのだ。
授業内容や着替え等配慮されるわけもなく、不便極まりないはずなのに何故か彼女は今も元の姿へと戻ろうとはしなかった。
それを問えば口ごもり、しばらく逡巡した後に理由を口にする。

「……だって、春草くんに会えなくなるじゃないですか」
「……は?」
「だから、元に戻ったら春草くんと会えなくなっちゃいます。だから……」

まさかそんな理由だったとは思わず、俯く彼女に手を伸ばすと視線を合わせる。

「……ねえ、それってどういう意味? 俺と会えなくなるのがどうして嫌なわけ?」
「それ、は……」

視線を合わさない彼女を強引に自分の方へ向けると、頬を赤らめ目を泳がせる姿に予想を確信へ変えるべく追及を続ける。

「芽衣。教えて」
「……!」

彼女の本当の名を口にすれば、ハッと見開かれた瞳が潤んで、気づけばその口を塞いでいた。

「んっ……春草、く、んん」
「は……、君が悪いんだろ。そんな顔してあんなこと言って」

だからと、距離を再び詰めるとその目を見て。

「君が好きだよ。……悔しいけど」

大きく見開かれた瞳が答えを返す前に再び塞ぐと、何度とキスを繰り返した。

20190907
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