君を、愛するから、共に

桃芽1

「……あなたはもう戻って来ないのだと思っていました。私の手の届かない、遠い世界へ行ってしまったのだと」

「……私も、もう会えないと思ってました。でも元の世界に戻って分かったんです。桃介さんに会えないことがこんなにも苦しいって……」

自分で選んでおきながらなんて勝手なんだろう。
責められても仕方ないのに、桃介さんは黙って話を聞いてくれていた。

「桃介さんは心を持っていってくださいと言ってくれたけどダメだったんです。だって、私の心は桃介さんの所にあったから」

「……っ」

「勝手、ですよね。帰ることを選んだのは私なのに……本当に自分勝手で恥ずかしい……」

「あなたが自分勝手なら、私もそうなのでしょう。あなたの心を奪ったのは私なのだから。あなたに心を差し出したように見せかけて、その実あなたをこの時代の私のもとに縛り付けた。浅ましいというならそれは私の方です。けれども、そのことを私は謝罪しません。どんなに浅ましくても、あなたを手に入れたかった」

非を自分にすり替え乞う桃介さんに緩く首を振ると、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちて頬を濡らす。それを優しく指先が拭ってくれた。

「私が勝手だったんです。ごめんなさい……」

傷つけて、苦しめて。こんなにも愛してくれたのにその手を振り払ってしまった。
彼の側にいたいと思ったのに、あの選択の時に誤ってしまった。
そこまで思って、今更彼の腕の中にいる権利などないことに気づいて慌てて離れようとするけれど、腰に伸ばされていた腕がそれを許してはくれなくて、わずかに背を反らすことしか出来なかった。

「どこへ行こうと言うんです? もう離しませんよ。この腕の中に戻ってきたのならもう決して離しはしません」

「でも、私は桃介さんの手を離し……ました。それなのにまた好きになって欲しいなんて……」

そんなの勝手過ぎると、そう続けようとした私を遮って。

「また、ではありません。私の心はあなたに持っていってくださいとお願いしました。ずっと、あなたのものだったんです」
「……っ」
「だから返却は認めません。乞うのは私の方でしょう。……芽衣さん」

向けられた空色の瞳に宿る熱は見覚えがあるもの。いや、それ以上――。

「あなたを愛してます。どうか私の側にいてください。私はもうあなた以外の人を愛せない」

頬に添えられた手に、今にも口づけられそうなほど近い距離に抗うことなど、否、抗う気などあるはずもなく、「私を桃介さんの側にいさせてください」と震える声で乞うた。

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