「……また届いたのか?」
「……うん」
困ったように眉を下げる千鶴の手には、江戸で暮らす鋼道からの手紙。
「二人の女の人が子を宿して喜んでるみたい……」
「……まじかよ」
雪村家復興に燃える鋼道のすさまじき執念に、平助が肩を落とす。
その昔、千鶴たち東の鬼の一族は、戦への加担を断り、人間に滅ぼされた。
その雪村家を復興するため、鋼道は自分たちで子孫を作ることにしたのである。
平助とて千鶴が愛しくないわけではない。
むしろ、健全なる男としては毎晩でもいいぐらいだ。
だが、子作りのために励むというのも萎えるもので。
ちらりと千鶴を見れば、送られてきた怪しげな薬に赤くなったり青くなったりしていた。
「なあ、千鶴」
「きゃっ! ……ご、ごめんなさい」
びくんと肩を揺らした千鶴に、平助が慌てて手を引く。
微妙な沈黙が間に流れ、おずおずと千鶴が顔を上げた。
「平助君、ごめんね」
「いや、気にしてねえからお前も気にするなよ?」
「うん……」
頷くもやはり顔を曇らせる千鶴。
「なあ」
「なに?」
「その……お前はどう思う?」
平助の曖昧な問いに、案の定千鶴はわからず首を傾げる。
「その……前にも言ったけどさ。千鶴と子を為すのは全然構わないんだよ。ただお前はどうなのかなって……」
「私は……平助君が望むなら……」
言いながら恥ずかしくなったのだろう、顔を赤く染めて俯く千鶴に、どくんと胸が高鳴る。
(やっぱ可愛いよなあ~!)
平助しか知らない千鶴。
その初々しさが可愛くて、愛しさが溢れてくる。
(いいんだよな?)
自分と千鶴は夫婦で。
屯所にいた頃とは違い、邪魔するものもいないとなれば、何時仲睦まじくしようと問題ないはず。
そうだと己を鼓舞すると、おもむろに千鶴の肩を掴んだ。
「千鶴……」
「へ、平助君……」
うろたえるものの、拒絶するつもりはないらしい。
視線を泳がせていた千鶴は、覚悟を決めたようにぎゅっと目を瞑った。
顔を傾け、唇が重なる―――瞬間。
「邪魔するよ、千鶴」
「きゃっ! ……と、父様っ!?」
「うわっ!」
慌てた千鶴に突き飛ばされ、哀れ平助は後ろへひっくり返った。
「ご、ごめんね平助君! 大丈夫?」
「……って~。ひでえぜ、千鶴」
「おや? もしかして本当に私は邪魔をしてしまったかな?」
「そそそそそそんなこと……っ」
「千鶴。バレバレだから」
嘘がつけない千鶴の焦りようにため息をつくと、ますます混乱して慌てふためく。
「一向に子どもが出来たと報告がないから見に来たのだが……心配はないようだな」
にこりと微笑むと、平助の手を両手でがしりと握る。
「藤堂さん。よろしく頼みます」
「は……はは」
鋼道が何を頼んでいるのか、分かりすぎて平助が顔を引きつらせる。
そうして満足げに去ってく鋼道を見送りながら、平助はちらりと隣りを見た。
(続き……は無理だよな、さすがに)
父親乱入直後に励むというのも無理がある。
そう判断すると、出鼻をくじかれた平助は深々とため息をつくのだった。