「きゃ……っ!」
「千鶴!? どうした……っ!」
おもてから聞こえた悲鳴に慌てて飛び出すと、そこにいたのは西の鬼の頭領・風間。
「風間! お前、まさかまた千鶴を狙ってきやがったのか!?」
「ふん……だったらどうするというのだ」
「あ~違う違う。あんたもわざと喧嘩売るのやめなさい」
風間の後ろからひょこりと顔を出したお千は、べしりと風間の背をはたくと二人に微笑みかけた。
「お千ちゃん!」
「千鶴ちゃん、元気だった?」
「うん。お千ちゃんも元気そうで良かった」
「酒を用意しろ」
「あ、お茶でいいから。ごめんね、図々しくて」
「ううん。どうぞ、あがって」
風間とお千の夫婦漫才のようなやり取りにくすくすと肩を揺らすと、千鶴は二人を家へ招きいれた。
「今日はね、千鶴ちゃんたちに報告があってきたの」
「報告?」
「私達、結婚したの」
「えええええええっ!?」
お千の爆弾発言に千鶴と平助が驚くと、風間が不愉快そうに眉を歪めた。
「何を驚く。より濃い鬼の血を残すことは血筋正しい鬼の務め。こんなじゃじゃ馬でも古き京の鬼の血を引く八瀬の姫だからな」
「あら、じゃじゃ馬って誰のことかしら? まさか自分の嫁を捕まえてそんなこと言うわけないわよね?」
「……拳で夫の背をどつく嫁が他にいるか?」
「いるわよ。ねえ?」
「あははは……」
笑顔のお千とどんどん機嫌が急降下する風間に、千鶴は力なく笑う。
「ところで……まだみたいね」
「え?」
「子の一つも成せぬとは……やはり所詮はまがいものか」
「まがいものって誰のことだよ」
「己のこともわからぬとは愚かしいな」
「お前って本当に頭にくる言い方しかしねえよな」
鼻先で嘲る風間に、平助ががしがしと頭を掻く。
「お千ちゃん?」
「お腹。千鶴ちゃん、全然膨らんでないもの」
ようやく意味を察した千鶴は、恥ずかしそうに俯き小さく頷いた。
「やっぱり寝所に焚く香ぐらいじゃダメか~。
今度天霧に別のものを仕入れてもらわなくちゃね」
「お、お千ちゃん?」
「俺のところに来ればよい。妾として可愛がってやろう」
「千鶴を妾!? ふざけんな!!」
「何バカなこと言ってんのよ」
平助が憤慨して立ち上がると、すかさずお千が(どこからか持ち出した)ハリセンで風間をはたき倒す。
「まあ、こいつは置いといて。千鶴ちゃん、ちゃんと毎晩励んでる?」
「ままままま毎晩っ!?」
「お、お前、なんちゅうことを……っ!」
「相変わらず初々しい反応だけど、鋼道さんずいぶんとしびれ切らしてたわよ?」
お千の口にした名に、千鶴と平助が慌てふためく。
千鶴の父・鋼道は、雪村家復興を目指し子作り大作戦を実行しているのである。
「なんか天霧や不知火にまで話ふってたみたいなの」
「父様、そんなことを……」
「だ~っ! 千鶴は誰にもわたさねえぞ!!」
「そう思うんならとにかく早く既成事実作りなさいな」
ずばっと核心を突くお千に、平助は今夜からの子作り決心を固めるのだった。
次回『婿vs舅対決!』 ついに千鶴が懐妊!?(うそです)