婿vs舅対決!3

平千6

「はい。お千ちゃん」
「ありがと。千鶴ちゃん、お嫁さんしてるわね」
「そ、そんな……っ」

にっこり微笑むお千に、千鶴は茶を運んできた盆を抱きよせ、頬を染める。
元気? と、突然君菊を連れやってきたお千は、美味しそうにお茶をすすると、ちらりと視線を二人に向けた。

「それはそうと―――二人とも」
「はい?」
「子作り進んでる?」
お千の突然の言葉に、ぶほっと平助が茶を吹き出す。

「だ、大丈夫っ?平助君」

「っ……げほっ…っ……お、おま…っ! いきなりなんてことを……っ!」

「だって鋼道さんに言われたんだもん」

「と、父様に?」

「そ。『ぜひ我が妻に』とか言うから、髪はやして100年前に来いって言っといたわ」

「父様……」

「鋼道さん、千姫にまで手え出したのかよ……」

ずずっと茶を啜りながらの容赦ない物言いに、千鶴と平助は頭を抱えた。
東の鬼を統べる一族だったという雪村家の復興に燃える鋼道は、千鶴夫婦と己でそれを為そうと、子作りに燃えているのである。

「千鶴ちゃんの家が復興するのは嬉しいし、応援したいけど、オヤジの相手はやっぱり勘弁よね。たとえ優れた血を残すのが由緒正しい鬼の使命だとはいえ」

鬼の一族は女が極端に少なく、故に一族の繁栄のために長の一族は特に子孫を残すことを絶対とされていた。
それは京の古き鬼の血を引くというお千も同じで、いずれは各地に散らばっている鬼の長など血を色濃く継ぐ者との政略結婚は必須だった。

「鋼道さん、はりきってるわよ。診療所に来る女の人を片っ端から口説いて」

「と、父様が?」

「うん。これなら年内に2,3人は子どもも生まれるんじゃないかしら」

「すげぇ……」

有言実行している鋼道に、平助が妙な感心をする。

「……というわけで、はい」

「これは?」

「鋼道さん特製の滋養薬。これで精力養って子作りに励みなさいって」

「っ……!」

「まじかよ……」

「で、これが私から。舶来物で気分を高めるために寝所で用いる香らしいの」

「お、お千ちゃんっ」

「たまには気分を変えるのもいいでしょ?
私のは鋼道さんみたいのじゃなくて、結婚のお祝いだから」
そうして真っ赤に染まった千鶴に、耳元でそっと問う。

「ところで藤堂さんとは契りは結んだの?」
「っ……そ、そんなこと言えないよ……っ」
「ふ~ん……ま、盛り上げにでも気が向いたら使ってみて? 案外いいらしいから」

羞恥で答えられない千鶴に、しかし見抜いたお千はふふふと微笑み、その手に餞別を握らせた。

「あんまり焦らすと、鋼道さん暴挙に出るかもしれないから気をつけてね」
冷や汗をかく二人に、お千はひらひらと手を振り去っていった。

「暴挙って……」

脳裏に浮かぶのは、いつぞやの瞳。
羅刹を使っての強行お家復興か、はたまた西の鬼への間男交渉か。
いずれにしても考えたくないもので。
平助は家の中に置かれた怪しげな薬に視線をやる。
他の男に取られるぐらいなら、いっそあれを使って頑張るべきか?
究極の選択を迫られ真剣に悩む婿殿だった。
Index Menu ←Back Next→