婿vs舅対決!2

平千5

五年ぶりに再会した父からの思わぬ願い(?)に、千鶴と平助は困りはてていた。

「ご、ごめんなさい、平助君。父様があんなこと言いだして……」

「い、いや、その、嫌なわけじゃなくて物理的に無理っていうか、俺そんなにもつかなとか……」

「え?」

「い、いや、こっちの話!」

思わず漏らしかけた本音に、平助が慌てて口をつぐむ。
元気な父の姿に喜んだのもつかの間、話は思わぬ方向に転がっていた。
千鶴の一族である雪村家の復興。
それを長年夢見ていたという鋼道は、あろうことか二人にそれを委ねてきたのだった。

「その……千鶴と子を為すのは全然構わないんだけどよ。変な薬使ってまでやるのはちょっと
っつーか……」
「っ……」

ため息交じりに呟くと、千鶴が顔を真っ赤に染めて俯く。
子作り、と言う生々しい響きがどうしようもなく恥ずかしいのだろう。

「しかし、『娘さんを俺に下さい』っていう暇もなかったよなぁ……」
鋼道の爆弾宣言に度肝を抜かれ、すっかり言いそびれてしまった挨拶にため息が漏れた。

「鋼道さんは?」
「家で荷物を片付けてるって……」
いたたまれなくなって外へと逃げてきた二人は、ふうとため息をつく。

「父様があんなことを望んでいたなんて、ちっとも知らなかった……」
一族が人間に滅ぼされたことも、変若水の研究を命じられたことも、千鶴は何一つ知らされていなかった。

「お前を傷つけたくなかったんだろ。変若水にしても幕府からの命だったから、言うわけにいかなかったんだろうし」
「うん……」
目を伏せ、寂しげに頷く千鶴の肩をそっと抱き寄せる。

「千鶴は……欲しいか?」
「え?」
突然の問いに首を傾げると、平助は言いにくそうに口ごもった後、小さく呟く。

「子ども」
「っ……!」

頬が急激に熱を帯びる。
平助と肌を合わせたのは、ついこの間。
鋼道の行方がわかり、自分がいなくなった後任せられるという平助に、どんなに父が傍にいてくれても平助の代わりにはなれないのだと寂しさを訴えた時だった。

「羅刹にならなきゃこれ以上命を縮めることはないって言っても、鋼道さんが望むほどの子ども作るって言ったら何年かかるんだか……」

腹で育つのに10ヶ月。
しかし、産んでまたすぐに子を宿すというのは、あまりに身体に負担をかけるだろうから、休ませる期間を考えるととてもじゃないが可能とは思えなかった。

「そうだ! 鋼道さんも作ればいいんじゃねえか!」

「え?」

「別に鬼同士じゃなきゃいけねえってわけじゃないんだろ? だったら、鋼道さんも嫁さんもらえばいいんだよ!」

「と、父様が?」
平助の案に、千鶴が眉を下げる。
継母が嫌だとか、そんな我が儘を言う気はないが、目的が一族復興のためと言うとどうしても頷けなかった。

「――なるほど。そういう考えもありますか」

「うわっ! こ、鋼道さん? いつの間に……っ」

「出来れば鬼同士の方が望ましいのですが、女鬼をみつけるのは至難の業。分家とはいえ、私も
雪村の血を引く者。及ばずながら身を捧げると致しましょう」

「と、父様?」
一人納得している鋼道に、千鶴が頬を引きつらせる。

「千鶴。父様は江戸に帰り、嫁探しをする事にする。多少衰えたとはいえ、嫁に妾……5人ぐらいはいけるだろう」

「ご……っ」

「5人!? ……鋼道さんって何気にすげえんだな……」

絶句する千鶴と、妙な感心をする平助に、鋼道は踵を返す。

「そうと決まれば善は急げだ。千鶴、お前はすぐにでも藤堂さんの子を産むのだぞ」

しっかりきっぱり釘をさして、嵐のように去っていく父に、千鶴と平助は呆然としばらく立ち尽くしていたのだった。
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