婿vs舅対決!

平千4

行方知れずだった父と連絡が取れたと、お千から手紙がきてから二週間あまりが過ぎた頃、千鶴は五年ぶりに父との再会を果たした。

「父様!」

「おお、千鶴。心配をかけてすまなかったね。
行方を知らせることも出来ず、一人で心細かっただろう?」

「ううん。父様と連絡が取れなくなってから京に出て、新選組の皆に……平助君と出会えたから」

自分を見上げる千鶴に、平助は照れくさそうに頬を掻くと、鋼道に向き直った。

「鋼道さん、無事で良かったよ。……守ってやれなくてごめんな」

鋼道は幕府の命を受け、変若水の研究を新選組で行っていた。
しかし、新見と共に姿をくらまし、その後は倒幕派に軟禁されていたと聞き、鋼道の身の保護を任されていた新選組の一員として平助は詫びた。 そんな平助に、出入りしていた頃には見たことのない、柔らかな笑みを浮かべた鋼道はゆるりと首を振った。

「藤堂さんが詫びることなどありません。新選組に留まっていては研究は進まないという新見さんの言葉に従ったのは私なのです」

「いや、でも新見さんは俺達新選組の隊士だったし……」

「新見さんが望んでいたものと私が望んでいたものは、必ずしも同じではありませんでしたが、それでも私自身力を求め、彼の誘いに乗ったのです」

『己が無力であった故に全てを失った者は……
一様に思うものです。【力さえあれば】と』

それは屯所からの帰り道で聞いた鋼道の想い。
必要なこと以外は話そうとしなかった鋼道が、
初めて胸の内を垣間見せた瞬間だった。

「父様はどうして変若水を……力を求めたの?」

千鶴の問いに、鋼道は目を伏せると静かに過去を語り出した。
それは千鶴の知らなかった一族の末路。
戦への協力を断ったが故に雪村家は滅ぼされ、鋼道は幼い千鶴を抱いて、必死に逃げのびたのだった。

「私は憎かった。ただ穏やかに暮らしたいと望んでいた私達から全てを奪った人間が……だが何より仲間が次々と殺されていく中、逃げることしかできなかった自分の無力さが憎かったのだ」

「父様……」
苦悩に満ちた父の告白に、千鶴は言葉を失う。
しかし、向けられた瞳は、驚くほど凪いでいた。

「しかし、たとえ一時の力を得たとしても、死したる者は戻らないのだ。だから――」
千鶴の手を握ると、鋼道は笑顔で告げた。

「お前たちが一族を復興させるのだよ。千鶴、藤堂さん」
「「……は?」」
言葉の意味が分からずに揃って瞳を瞬くが、鋼道は意に介さずに話を続ける。

「幸い、お前には藤堂さんという夫がいる。今から産めば十人ぐらいは可能だろう」

「と……っ!!」

「俺達で子孫増やせっていうのかよっ!?」

思わぬ言葉に顔を赤らめる千鶴と、動揺する平助に、鋼道は笑みを深めるばかり。

「一族を復興って……私はそんなこと……っ」

「それに……俺は変若水を飲んで羅刹になっちまった。だから……」

「大丈夫。あなたが亡くなられた後は、私が千鶴に新しい婿を見つけます」

「いや、そうじゃなくて……っ!」
完全にいってしまっている鋼道に、平助は頭を抱え込んだ。

「だああああっ! 千鶴を他の男になんて冗談じゃないぜ! たとえ死んでも千鶴の旦那はずっと俺一人なんだよ!」

切れて叫ぶ平助に、鋼道はすっと表情を消すととんでもないことを口にする。

「では仕方ありません。やはり強硬手段を取るしかありませんね」
「き、強行手段ってなんだよ?」

先程までとは打って変わった表情にうろたえると、懐から出てきたのはあの忌まわしい薬。

「それ……っ!」
「まだ残ってたのかよ!?」
「これで羅刹の部隊を作るしか……」
「ちょ……っ鋼道さん!?」
物騒なことを口にする鋼道に、千鶴と平助は慌てて取り成す。

「父様、早まらないで!」

「そ、そうだよ! あんたも言ってたじゃねえか!?それは使わない方がいいって!」

「私も恐ろしい考えだと否定してきましたが、
雪村家復興は長年の夢。藤堂さんが協力して下さらないのならば仕方ありません」

「いや、そうじゃなくて、どう考えても俺達だけで一族復興させるほど子供を作るなんて無理だろ!?」

「大丈夫。どれほどやっても○○続ける薬を使えば……」

「なんだよ、その怪しげな薬は!」
次々と並べられてく薬に、平助は脱力する。
俺は子作りで寿命削られて死ぬのかよ!?
平助の悲痛な叫びが、雪村の里に響き渡った。
Index Menu ←Back Next→