遠くから聞こえてきたお囃子の音に、千鶴は洗濯物をたたんでいた手を止め、耳をすませた。
「どうしたの?」
「どこからかお囃子が聞こえてくるんです」
「ああ。今日は夏祭りがあるからね」
「そうなんですか?」
「うん。この前村に行った時に、子供たちが言ってたから」
時々人里へ下りて買い物をする二人。
千鶴が買い物をしている間に、どうやら沖田は子供たちと遊んでいたようだ。
「夏祭り行きたい?」
「そうですね。ちょっと心惹かれます」
屯所にいた頃、原田と永倉に連れて行ってもらったことを思い出し懐かしんでいると、すっと差し出される手。
「行ってみようか」
「え?」
「ほら」
千鶴の手を取る沖田に、ちらりとたたまれた洗濯物に目を移す。
「でも、まだ洗濯物が……」
「しまうだけでしょ? だったら大丈夫だよ」
さあ、と促されて隣りに並び立つと、嬉しそうに沖田を見る。
「ありがとうございます」
「なに? まだついてないよ?」
「一緒に行ってくださることが嬉しいんです」
微笑むと、沖田もにこりと微笑み返してくれて。
小さな、けれどもかけがえのない幸せに胸が温まる。
隣りに沖田がいて、こうして微笑み返してくれる。
そのことが嬉しくて、繋いだ手に力を込める。
千鶴の想いがわかっているのだろう、優しく握り返される手。
その喜びを噛みしめながら、千鶴は賑やかなお囃子の中へと入っていった。