「ねえ、千鶴」
「はい」
「好きだよ」
「私も総司さんのことが好きです」
「だったら……」
「もう少し待ってくださいね。あとちょっとで畳み終わりますから」
うまく千鶴を誘導したつもりがあえなく却下されて、沖田は不貞腐れたように空を仰いだ。
流れる雲をただ見つめているのも嫌いではない。
嫌いではないが、今自分が求めているものではない、と沖田はちらりと視線を傍らの千鶴に移した。
高く結い上げていた髪は下ろされ、身を包んでいた着物は男物から女物へ。
そこに新選組に連れられてきた頃の面影はなかった。
「……きゃっ! 総司さん?」
「髪。伸びたよね」
「そうですか?」
突然髪に触れられ、驚いた千鶴だったが、沖田の呟きに洗濯物を膝に置いて自らの髪に手を伸ばした。
「総司さんは結い上げている方がいいですか?」
「別に。どっちでも君は似あうと思うし」
さらりと指に絡めて弄びながら微笑むと、赤らむ頬。
共に暮らすようになって一年が過ぎるというのに、千鶴はいまだにこうした初心な反応を見せていた。
「総司さんも伸びてきましたね」
「そう?」
にこりと微笑む姿に重なる、もう一つの沖田の姿。
近藤の髪型を真似ているのだと、照れくさそうに微笑んでいたあの頃の彼。
「…………!」
むぎゅ。
突然鼻をつままれ、千鶴がきょとんと見上げると、沖田はさもおかしそうに肩を揺らした。
「何、その顔。狐につままれたような顔、ってそういうのをいうんじゃないかな」
「そ、それは総司さんが突然……っ」
「君が僕以外の男のことを考えたりするからだよ」
笑いを収めると、すっと翡翠の瞳に真剣な光が宿る。
「私は……」
「たとえそれが過去の僕でも。今、君の傍にいるのは誰?」
「私の、総司さんです……」
「よくできました」
にこりと笑みを象った唇がちゅっと重なると、千鶴の顔がさらに朱を帯びた。
「ねえ、千鶴。僕のこと好き?」
「……はい」
「だったらこれはいらないよね」
こっそりもらった葱を目ざとく見つけてきた沖田が笑顔で遠くに投げ捨てるのを見て、千鶴はため息をついた。