「可愛いよな~」
「『千鶴ちゃん』だろ? だが、あの子にゃ旦那がいるじゃねえか」
「くう~! 俺もあんな可愛い嫁さんが欲しいぜ~」
歯噛みする男に、他の男も一様に頷く。
彼らが話題にしているのは、最近見かけるようになった若夫婦。
時折野菜などを買いに来る彼らは里のものとは違い、どこか洗練されたふいんきをもっていたため、皆興味を抱いていた。
「その千鶴ちゃんなんだけどさ。この前、すごいもん見ちまってよ」
「なんだよ?」
「あの千鶴ちゃんが旦那をまるで犬のようにだな……」
覗き見た光景を語る男に、顔を突き合わせていた別の男はおいおいと肩をすくめた。
「千鶴ちゃんが旦那を膝まずかせてたって? 旦那の方ならともかく、そりゃあねえだろ?」
「本当なんだって。こう、掌を差し出してだな。そこに旦那が口づけてたんだよ」
脳裏に浮かんだ光景は、普段の清楚な千鶴の姿からは想像もつかないものだった。
「どうせお前の作り話だろ?」
「ほんとだってい……」
「本当だよ」
笑い飛ばされ、ムキになって言い返そうとした男の声に重なるもう一つの声。
に、男達はバッと後ろを振り返った。
「あ、あんたは……っ」
「可愛い千鶴ちゃんをお嫁さんにもらった幸福な男、だよ」
にやりと口角をつりあげた沖田に、里の男達が慌てる。
「君たちが彼女をどんなふうに思っているのかは知らないけど、この僕を唯一かしづかせることの出来る子なんだ。手を出すなんて考えないことだね」
笑顔なのになぜかそれが妙に恐ろしくて、男達は震えあがると蜘蛛の子を散らしたように逃げ帰っていった。
「総司さん? どうかしたんですか?」
「なんでもないよ」
探しに来た千鶴に笑顔を浮かべると、その肩を抱いて戻っていく。
この後、里に『千鶴の魔性の女説』が広まったとか。