「どうしたんですか?」
ずっと注がれる視線に、洗濯物が一段落したところで、千鶴は後ろを振り返った。
そんな千鶴に、壁にもたれかかって彼女を見つめていた沖田は、にこりと微笑んだ。
「別に。ただ、幸せだな……って。そう思ってたんだよ」
手招きされ、ぽんぽんと自分の隣りを指し示す沖田に、千鶴は素直に腰を下ろす。
と、こてんと膝の上に沖田が寝ころんできた。
「そ、総司さんっ!?」
「前にさ、松本先生のところで療養してた時、君に添い寝してもらったことがあったでしょ?」
「そ、添い寝はしてないですっ!」
「細かいことはおいといて。あの時さ、思ったんだ。君に甘えるのは心地良いな……って」
それは、沖田が山崎と口論した夜のこと。
沖田の身を案じる山崎と千鶴に、彼は眉をよせて苦悩を吐露した。
薫に騙され変若水を飲んだ沖田は、その力によって労咳は治ったと思っていた。
なのに、受けた銀の銃弾は傷をたちどころに癒すはずの羅刹の身を以てしても癒えず、再び療養生活を強いられたのである。
近藤の役に立つことが何よりも大切な彼にとっては、それは耐え難い日々だった。
それでもと窘めた千鶴に、じゃあ添い寝してとねだった沖田。
始め、彼の意図がわからず慌てた千鶴だったが、「一人になると寂しいから、傍にいて欲しいってこと」と素直に告げてくれたことで、ようやくその想いを理解した。
人ならざるものへの変貌。
平助のように悩んだ顔を素直に見せられず、こうした悪戯めいた甘えを口にするのが、沖田の精一杯だったのである。
「あの時さ、僕が寝入るまでずっと、君は傍にいてくれたでしょ?」
「はい」
静かな寝息が聞こえ始めても、千鶴は傍を離れることができなかった。
彼にとって自分の存在が少しでも意味を持つものなら。
これからも彼の隣りにいることを許されるのなら。
彼の力になりたい――。
そう強く願ってやまなかったから。
「あの時ね――本当に嬉しかったんだ」
「総司さん……」
「色んな人を亡くして、別れて……それでも君だけはすぐ傍にいる。手を伸ばせばこうして触れられて、微笑みかけてくれる。こんな日常がたまらなく愛しい」
いつもの皮肉めいた笑みじゃなく、本当に心から幸せだと、そう微笑んでくれることが嬉しくて。
そっと、膝の上の棒色の髪を撫でる。
「好きだよ。君が心から愛おしい」
「私も……総司さんが好きです」
「ありがとう」
にこりと笑って、手が伸びて。
その手に素直にさらわれて、唇をそっと重ねあう。
――大好き。
その想いをぬくもりで伝えあって。