ぽん、と肩を叩かれ、振り返った千鶴は目を見開いた。
「なんて顔してんだよ」
「原田さん! どうしてここに?」
そこにいたのは、かつての仲間・原田。
総司の療養のために新選組を離れている間に袂を別った彼が、どうしてこの隠れ里にいるのかが不思議で、千鶴は大きな瞳をこれ以上ないくらいに瞬いた。
「お千って女の子から聞いたんだよ。東北の千鶴の故郷にいる、ってな」
原田の口からでた懐かしい少女の名に、千鶴がさらに驚く。
お千とは、同じ鬼の一族の少女で、千鶴の身を案じてくれる友人だった。
「賑やかだと思ったら、ずいぶんと懐かしい顔があるね」
「総司さん!」
昼寝をしていたはずの彼の登場に、千鶴が驚き振り返った。
そんな千鶴の横に並ぶと、にやりと彼独特の笑みを浮かべ、原田に向き直った。
「で? こんなところまで何しに来たの?」
「そう突っかかるなよ。この国を離れる前に、お前らの元気な顔を見たかっただけなんだからよ」
「この国を離れる?」
「ああ。俺は満州に行く」
原田の口から出たのは、異国の地。
突然の再会と別れに、千鶴が二の句を告げずにいると、総司がふっと微笑んだ。
「左之さんらしいね。けど、新八さんが泣くんじゃない?」
「野郎に泣きつかれるなんざごめんだね。ま、あいつとはきちんと話し合って決めたんだよ」
新政府との戦いが終わり、生き残った仲間はそれぞれに新しい道を見つけ歩んでいた。
新八は江戸で道場を、そして原田は平穏を求め満州へ。
「……異国じゃなかなか会うことも出来なくなりますね」
寂しげに呟く千鶴を、慰めるようにぽんぽんと頭を撫でた。
「そんな顔するなよ。お前が呼んだら、いつだって来てやるからな」
「呼ばせないよ。彼女には僕一人で十分だからね」
「そ、総司さんっ」
抱き寄せ、にやりと笑う総司に、千鶴が顔を真っ赤に染めた。
あからさまな独占欲を見せる総司に、原田はやれやれと首をすくめると、ひらひらと手を振った。
「総司に泣かされたらいつでも呼べよ。じゃあな!」
新選組でも人一倍気配り上手で面倒見がよく、まるで兄のように優しかった原田の去っていく背中に、千鶴は精一杯の励ましを送る。
「原田さん、お元気で! きっとまた会いましょうね!!」
肩越しに振り返った原田の微笑みが、遠く彼方へと消えていく。
寂しげに肩を落とした千鶴を、総司はそっと包み込んだ。
「……寂しい?」
「……はい。でも原田さんが決めたことだから」
そう言って微笑む千鶴の優しさに、総司も微笑む。
「それに、私には総司さんがいるから。だから寂しくなんかありませんよ」
「……君って本当に罪作りだよね」
苦笑を浮かべる総司に、わけがわからず千鶴はぱちぱちと瞳を瞬く。
「今日は君を離してあげないよ、ってことだよ」
呟くと、柔らかな唇へと熱を重ねた。