「……あのさあ」
「は、はい」
「どうしてそんなに強張ってるの?」
宵闇に包まれた褥の中。
かちこちに身を強張らせた千鶴に、沖田がため息をつく。
つい先日婚姻を結び、晴れて身も心も夫婦となった二人だったが、沖田が触れようとするたび千鶴はこの調子だった。
「もしかして僕に抱かれるのは嫌?」
「い、いえ、違います! そ、そうじゃなくて……」
真っ赤な顔で口ごもる千鶴。
純粋で、沖田が初めてだった彼女がこうしたことに恥じらうのは当然だが、何も肌を合わせるのは今回が初めてなわけではないのだ。
しかも口づけすらしておらず、ただ添い寝をしただけでこうも警戒されるのは、さすがに面白くなかった。
「……総司さん……?」
黙り込んでしまった愛しい人に、千鶴が恐る恐る覗き込もうとした瞬間、降りてくる唇。
口づけされる……!
そう思って目をつむった瞬間、鼻先にツキリと痛みが走った。
「………?」
予想と違う状況に目を開けると、間近に端正な沖田の顔。
が、ぱくりと噛んでいるのは鼻。
真っ赤になって固まった千鶴に、にやりと微笑むと甘噛んだ鼻をぺろりと舐めた。
「……期待した?」
「! ……し、してませんっ!」
否定するも胸の鼓動は張り裂けんばかり。
「無理やりなんてしないよ。君に嫌われるのは嫌だし」
「そんな……嫌うだなんて……っ」
「じゃあ、君からしてよ」
「そ、そんな……っ」
「君って本当にわがままだよね。触れようとすれば怖がるし、触れなければ寂しがるし」
「だ、だって……きゃっ!」
着物の上からさらりと撫でた手に、千鶴が悲鳴をあげる。
「我慢しない、って言ったでしょ?」
「総司さん……」
「君が好きだよ」
想いを告げて、返された言葉に微笑んで。
今度はちゃんと唇に口づける。
ねえ、千鶴。君も早く僕に溺れてよ。
僕ばっかりなんて不公平でしょ?
そう囁いて、あとは共に溺れるだけ――。