不釣合いだなんて言わせない

土千7

まとわりつく人の視線に、千鶴はそっと歩く速度を落とすと、土方から数歩遅れて後ろを歩く。
そんな千鶴を、土方が訝しげに振り返った。

「おい、何してやがる」
「その……土方さんの隣りを歩くのがいけないように思えたんです」
「はあ? どういうことだ?」

わけがわからねぇとばかりに深くなった眉間の皺に、千鶴は先程から感じている視線について説明した。

「先程から道行く人々が土方さんに見惚れているのを見て、私なんかが隣りにいるのはおこがましい気がしたんです」

以前も綺麗な芸者姿の君菊と土方がより沿う図があまりにも様になっていて、貧相な自分との落差に落ち込んだことがあった。
土方は役者と間違われるぐらいの美丈夫で、ただそこにいるだけで人目を引く容貌をしていた。
そんな彼の横に、自分のような平凡な女が並び立つことはひどく申し訳ないことのように思えて、自然と彼から数歩離れて歩いてしまったのだ、と。
千鶴の返答を聞いた土方は深々と息を吐くと、千鶴の肩を掴んで自分へと引き寄せた。

「ひ、土方さん?」
「どいつが似合わねぇなんて言いやがった?
お前は、俺の隣にいるのが一番似合うに決まってんじゃねえか」

すっぱりと言い切られて、千鶴の頬が朱を帯びる。
隣りにいるのは自分でいいのだと、そう言い切ってくれる土方が嬉しくて、ふわりと笑みが広がった。

「はい。私はずっと、土方さんの隣りにいます」

柔らかく見つめる双眸に促されて、足りない数歩の距離を縮めて彼の隣りへと並び立つ。
いつも必死に追っていた、広い背中。
だけど今は、彼の隣りで同じものを見つめることを許されているのだ。

「着物でも見繕うか」
「え?」
「隣に立つのがおこがましい、なんて言えねぇようにな」

にやりと笑う土方に、千鶴も微笑み返す。
もちろん今、着物を見繕う余裕などあるはずはなかったが、それでも土方のそうした気遣いが千鶴は嬉しかった。

「私、幸せです」
思ったままを告げれば、一瞬見開かれた瞳は、
すぐに柔らかく微笑んで。

「ああ。……俺も幸せだよ」
返された返事に、これ以上ない幸せを噛みしめるのだった。
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