冬の恋人たち

土千21

キラキラと光り輝く街並み。
色とりどりのライトで飾られたイルミネーションを見つめながら、千鶴はふと胸元のネックレスに手を伸ばした。

「千鶴?」
わずかな身じろぎに気がついた土方が声をかけると、千鶴は照れくさそうに微笑む。

「もう一度クリスマスを土方先生と過ごせて嬉しいと思ってたんです」

五年前、千鶴がまだ薄桜学園の生徒として在籍していた時、芹沢主宰のクリスマスパーティに参加したことがあった。
その帰り道、土方がくれたのが桜色の石があしらわれた、この白銀に輝くペンダントだった。

「……今日もつけてるんだな」

「はい。特別な日はこのペンダントと一緒に過ごすって、いただいた時から決めてるんです」

「……千鶴」

「軽々しく言ってるわけじゃないですよ。土方先生とクリスマスを過ごす……今日は特別な日ですから」

「そんなことはいわねえよ。俺も同じ想いだからな」

「え?」

思いがけない言葉に見上げれば、優しい微笑みがあって。繋がれたままの手に力がこもる。

「特別な日はそのペンダントと一緒に過ごすんだろ? もちろん俺と一緒にな」
「……はい!」

五年前は何とも言えない顔で千鶴を見つめていた土方が、今は同じ気持ちを隠さず返してくれる。
そのことが嬉しくて、嬉しくて、胸が熱くなる。

「千鶴。手を出せ」
「え? は、はい」
反射的に手を出せば、手にのせられた小さな箱。
遠い記憶と重なる出来事に驚くと開けるように促され、宝物に触れるように慎重にリボンを解いた。
中に入っていたのは――。

「………!」
箱を開けたまま動けない千鶴に、土方が中身を手に取り、左手の薬指に桜色の石があしらわれた白銀のリングを通す。

「馬鹿の一つ覚えみてえにまた桜で悪いが……
お前にはそれが似合うと思ってな」

心の美しさを示す花である桜は千鶴にぴったりだと、以前ネックレスをくれた時に言った土方。
その想いが嬉しくて、千鶴は白銀のリングをそっと包み込むと、眦から涙がこぼれ落ちる。
薄桜学園に入学して以来、土方はずっと千鶴の憧れだった。
厳しいところもあるけれど、誰よりも生徒のことを想い、導いてくれた土方を見ていて、千鶴は教職を目指そうと思ったのだから。
まだまだ教育実習を終えたばかりで、同じ土台に立てたわけではないけれど、それでも追いついてみせる。
そう決めていた。

「ありがとう……ございます」
震える声で御礼を告げると、優しく抱き寄せられて。
耳元に低い艶やかな声で囁かれる。

「……ところで、呼び方が戻ってるのはどういうことだ?」
「――あ」

教育実習の申込書を持って三年ぶりに薄桜学園を訪れた時、土方に先生ではなく別の呼び方をするよう乞われた。
もちろん教育実習生として学園にいる間は、公私のけじめをつけて『土方先生』と呼んでいたが、こうして学園外で会う時は恋人として『土方さん』と呼ぶようになっていた。

「す、すみません。ついこの間まで先生とお呼びしていたのでつい……」
「俺はお前のなんだ?」
「土方さんは私の……恋人……です」

問いに恥ずかしそうに、それでもはっきり答えれば満足そうな笑みが浮かんで、柔らかく唇に触れられる。
想いを口にすることもできずに、ただその背を必死に追いかけていたあの頃。
けれども今は恋人として隣に立てる。
そのことが嬉しくて、幸せで、優しい口づけに涙がこぼれる。

「……お前はよく泣くな」
「すみません……」
「俺が拭ってやればいいだけだ」

眦を拭う指はどこまでも優しくて、千鶴を愛おしむ想いに溢れていて。
胸がいっぱいになる。
変わり始めたばかりの土方との関係。
それはほんの少しの恥ずかしさと、あたたかさが溢れていて。
千鶴は隣にあるぬくもりを愛おしげに抱き寄せた。
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