蕾なれどもかくも匂いて

土千2

――こんなことを考える私は、なんて不謹慎なのだろう。

柔らかな舌が傷口をなぞる感触に、身体の奥からぞくぞくと湧き上がる何かを、千鶴はきゅっと瞼を閉じて耐えていた。

「……どうした?」

額に汗の粒を浮かべた青白い顔の土方に問われ、羞恥に頬を染めながら「なんでもありません」と答えた。
一瞬の間……再び肌に唇が触れる。

千鶴が土方にしてあげられるささやかなこと。
それが供血だった。
始めは血を飲むことを躊躇った土方も、今自分が倒れたり狂ったりするわけにはいかないとふんぎりがついたのか、吸血の発作を起こした時には素直に千鶴の血を飲んでくれるようになった。
鬼である千鶴の身体はあっという間に傷が塞がってしまうので、彼が血を得るには最良の相手であり、何より千鶴自身が彼の役に立てることを嬉しく思っていた。

しかし、最近になって問題が一つ浮上した。
それは、こうして彼に血を吸われるたび、身体の奥で疼く不可思議な現象にだった。
土方に必要とされる喜びとは別にわきあがる、内なる衝動。
それが情欲であるなどとは、初心な千鶴に分かるはずもなく、土方が血を嚥下するたび、首筋にかかる吐息に、唇を噛んで堪えていた。
一瞬とも永遠とも思えるその時間は、しかし落ち着いた呼吸と共に唇が離れたことで、終わりを告げた。

「……悪かったな。負担かけちまって」
「そんな……気にしないで下さい。傷も、もう塞がってしまいましたから」

詫びる言葉に、微笑みを返す。
乱れた襟元を直していると、じっとこちらを見つめる彼の視線に気がついた。

「土方さん?」

疑問を瞳に映すと、いや……と土方は軽く首を振って、ため息を一つつく。
何か彼の機嫌を損ねるようなことでも言っただろうかと、おろおろしていると、彼の眉間に深い皺が刻まれた。

「……たちがわりぃな」

問おうとした声は、しかし彼の呟きによって遮られた。
――たちが悪い?
頭に疑問符を並べると、再びため息をつかれ、ますます千鶴の頭は混乱した。

「茶を頼めるか?」
「は、はいっ」
頭を下げ、慌てて出て行った千鶴に、土方が眉間に皺を寄せたまま、三度目のため息をつく。

「あんな顔、他のやつらには見せられねぇな……」
潤んだ瞳に、上気した頬。
その恍惚とした表情は艶かしく、男の情欲を誘うものだった。

「まったく……本当にたちがわりぃ……」
胸に宿り始めた、決して言葉には出来ない気持ち。
だがそれを追求することは出来ず、土方は一度瞳を伏せると、常のように文机に向かった。
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