金色の月

土千10

まがいものと、金色の瞳の鬼が見下し嘲笑う。
生粋の鬼とは異なる真っ赤な瞳。
それは羅刹の本質を映し出したかのような狂気をもたらす血の色そのもので、武士であり続けるために幕府にもたらされた舶来の怪しげな薬を、処断との二択で促し部下に実験を繰り返した『鬼』の自分にはふさわしく思えた。


鬼と呼ばれることに悔いはない。
近藤のために鬼になると決めたあの時から、土方は新選組の影を背負うと決めてずっと突き進んできた。
だからこそ、たとえ禁断の薬に手を出しても、それがもたらすものが何であっても――新選組を支え守ると決めた。

だから、この決断は自分の意思で下したもの。
たとえ醜いまがいものと嘲られようと、決めた信念は貫くと、それが己の抱く武士の在り方だと、土方はまっすぐ前を見る。


好きだった春の月も、今はもうこの瞳に正しい色彩はわからなくなった。
夜目が利く代わりに失われた色彩は、己が人ではなくなった証。
それでも、失われたものを補ってなお余りある存在が、土方の隣りにはある。
二度と見ることは叶わないだろうと思っていた春の月を思わせる女――千鶴。
新選組にすべてを捧げて死ぬことを考えていた自分に生きようと思わせた存在。
彼女があるからこそ、今、土方はここにいる。

残された時間がどれほどのものかはわからない。
燃やす糧が失われ、羅刹としての力を失い、再びこの瞳は月の色彩を正しく映すようになった。
それでも、後悔はしない。
武士として生き、新選組を導いてきた日々を。
千鶴を生涯ただ一人の女と決めて、共に生きることを。

「歳三さん?」

柔らかに名を呼ぶ声に微笑んで、ゆっくりと振り返る。
誰よりも愛しい彼の月に――。

2017/06/12
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