とある夜のこと。
夜中にふと目を覚ました千鶴は、部屋の中に何者かがいる事に気が付いた。
(誰……? まさか羅刹……!?)
以前の出来事を思い出し青ざめるが、どうにも様子が違った。
「おい……これやっぱ小さいって」
「無理すりゃなんとかなんじゃねーの?」
「いやいや、どう考えても無理だろ」
何やらぼそぼそともめてる声は聞き覚えがあるもので。
目を凝らしていると、月明かりが部屋の中を照らし出した。
「誰だよ、足袋に入れるなんて言ったの」
「だって、外国ではこうするって言うから……!」
「足だけ突っ込んでおけばいいんじゃねえか?」
「永倉さん、平助君? 原田さんも……どうかしたんですか?」
「千鶴ちゃん!? 起きちまったのか?」
「そりゃこれだけ騒いでりゃ目も覚めるだろ」
「まずいって! こっそり置いとかなきゃ意味ないし!」
あたふたと慌てる三人に、ふと原田が手にしている物に目を留めた。
「……犬?」
リボンがかけられたそれは、犬の形をした人形。
「いや、これはその……っ!」
「ほら、千鶴」
動揺している平助に、原田は持っていた人形を千鶴に手渡した。
「これは俺達からの『くりすますぷれぜんと』だ」
「あ~~~っ! 左之さん、何すんだよっ」
「どうせばれちまってんだからいいだろ?」
「くりすますぷれぜんと?」
耳慣れない言葉に首を傾げると、肩を落とした平助が説明を始めた。
「外国にさ、『くりすます』っていう行事があるんだって。その『くりすます』に足袋を飾って
おくと、『さんた』っていう爺さんがなんでかしんねーけど贈り物をくれるらしいんだ」
「だから俺達がその『さんた』とやらになってだな……」
「お前に贈り物をしようってことになったんだよ」
微笑む原田達が着ているのは、真っ赤な着物。
『さんた』に扮装しているらしいその姿に笑みをこぼすと、改めて腕の中の人形を見た。
無理やり足袋に片足を突っ込んだ犬の人形は、つぶらな瞳で愛らしく、ちょうど抱きしめるのにいい大きさだった。
「ありがとうございます。原田さん、永倉さん、平助君」
三人の気遣いが嬉しくて、胸の中が熱くなる。
瞳を潤ませ微笑む千鶴に、原田の大きな掌が頭を撫でた。
「水くせえことぬかすなよ。千鶴ちゃんのおかげで毎日美味しい飯が食えるようになったんだからよ」
「新八つぁんはほんと、飯のことしか頭にないよな」
「なんだと!? 平助、てめえは千鶴ちゃんの飯が美味くないっていうのか?」
「そうじゃなくて! 飯以外でも千鶴はいっぱい助けてくれてるだろ?」
「いつもありがとな」
じゃれあう永倉と平助に苦笑しながら、感謝を伝える原田に、千鶴はふるふると首を振る。
「皆さんに喜んで頂けるように、これからも頑張りますね」
心から感謝する千鶴に、三馬鹿サンタは満足げに微笑んだ。