不器用な思い遣り

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「で? どうして君がいるのかな?」

「お、俺は総司が千鶴の風呂を覗かねぇか心配で……っ!」

「僕が? 新八さんじゃあるまいし、この僕がそんな真似するわけないでしょ?」

にやりと笑みを浮かべる沖田に、平助がぐっと口をつぐむ。

千鶴が屯所に連れて来られて2ヶ月。
彼女の存在は幹部にしか知られておらず、平隊士と出くわすことのないよう、こうして彼女が風呂を使っている時は誰かしらが見張りをしていた。
だが、男所帯の中の唯一の花とあっては、平常心を保つのは結構大変なもので。
年頃の男である平助は、いつも自分の煩悩と必死に戦っていたのである。

「お前、ちっとも気にならねぇのかよ?」

「平助くんは千鶴ちゃんのお風呂を覗きたいんだ?」

「ばっ……ばかっ、違うって! ただ俺は、男なら気になるのは当然だろって……!」

「ふ~ん。平助くん、そんなに飢えてるんだ」

ぽんぽんと返される厭味に、平助はカッと顔を赤らめた。

「飢えてるわけじゃねぇよ! ってか、なんにも感じないなんて総司こそおかしいじゃねぇの?」

「……なに? 僕が不能だとでも言いたいわけ?」

「そ、そうじゃねぇけどよっ」

すっと空気が変わった沖田に、平助が慌てて否定する。

「え? 平助くん? そこにいるのっ!?」
思ったよりも大きな声が出てしまい、風呂に入っていた千鶴にもそれが届いてしまったようで、焦った彼女の声が戸越しに響いた。

「あ、その、雑巾取りに来たんだ! すぐに出るから!」

そう声をかけて、いりもしない雑巾を手に取り、慌てて戸を閉めた。
危うく覗き犯になるところだったことに、はぁ~っと脱力していると、沖田がにやりと微笑んだ。

「じゃあ、廊下の雑巾がけよろしくね」

「はあ? なんで俺が雑巾がけなんてしなきゃならねぇんだよ!?」

「だったらその雑巾、どうするの? 千鶴ちゃん、不審に思うよね?」

「ぐ……っ」


痛いところを突かれ、言葉に詰まる。
そんな平助に、役目を終えた沖田は立ち上がると、ひらひらと手をふり去っていく。
一人取り残された平助は、沖田への悪口を叫びながら、一人せっせと廊下を磨くのであった。
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