おにぎり独占欲

ダリ梓6

お弁当を持って出かけることが決まって、渋るルードを説き伏せてお弁当を作っていた梓の元にダリウスがやってきたのは一時間ほど前のこと。
「何か手伝うことはない?」と聞くダリウスに大丈夫だよと答えたが、いつもなら「そう。なら俺は向こうにいるよ」と出ていく彼が今日は梓と共に作りたいと強く願い出て、しばらく悩んだ結果おにぎりを作ることにしたのだが。
ころころと丸いおにぎりが量産されていく様子に、梓は困ったように微笑んだ。
塩を掌にのせて、あまり力をこめずに形を三角に整える。
それほど難しい工程ではないと思うのだが、普段料理をすることのないダリウスには難しいのか、彼が握るおにぎりは丸くしかならず。

「どうにも君のように作れないね。力加減が悪いのかな?」
「でもあまりぎゅっと握っちゃうとほぐれないよ」

祖母に優しく握らなければお米の粒がつぶれてしまうのよ、と教えられていた梓は形を整える程度に握って皿に並べると、ダリウスのおにぎりとの差が浮き彫りになって麗しい表情が曇ってしまう。

「別に食べやすいだけで三角じゃなきゃいけないわけじゃないよ?」
「……そうだね。どうやら俺にはこれが限界のようだ。形を整えて美味しさを損なうのもいただけないし諦めるよ」

無念そうに呟くダリウスに微笑むと、作っておいたおかずをお弁当箱に詰めていく。
卵焼き、煮物、唐揚げ、トマトのビーンズ煮、それにサーモンサンド。
ルードからスモークした鮭と特製ドレッシングを貰って作ったそれは、和寄りの弁当とアンバランスだったが、普段洋食を食べることの多いダリウスに合わせた一品だった。

「皆にもお裾分けで、これとこのおにぎりも……」

多めに作ったおかずからいくつかを別の皿に取り置き、自ら握ったおにぎりを共に並べようとするとやんわりと大きな手に止められて。

「皆にはこっち。これぐらいは梓の手作りを独占しても構わないだろう?」
「……っ、でもいっぱい握ったし、サーモンサンドだってあるよ?」
「もちろんサーモンサンドもいただくよ。梓が俺のことを想って作ってくれたものだからね」

コロコロと、自分の作った丸いおにぎりを皿に並べて、梓のおにぎりを独占宣言するダリウスに頬を染めるも、指先にキスまで落とされたら嫌だと言えず、一つだけ丸いおにぎりを手に取ると、彼を見上げてお願いする。

「一つだけ私がもらってもいい? 私も、ダリウスが作ったものを食べたいから」
「もちろんだよ。ふふ、自分の作ったものを喜んでもらえるのは、こんなにも嬉しいものなんだね。ルードの気持ちが少しだけわかったよ」

嬉しそうに微笑むダリウスにホッとすると、詰め込んだお弁当の上に丸いおにぎりをのせてバッグに入れて、差し出された手を取る。

「今日はどこに行くの?」
「ふふ、ついてからのお楽しみ……と言いたいところだけど、花が綺麗に咲いている場所を見つけてね。そこでピクニックをしようと思ってる」

ピクニックと聞いてお弁当を作ることを思い立ったのだが、ダリウスが綺麗だというのなら素敵な場所なのだろうと胸躍らせると抱き寄せられて、一瞬後には変わった景色に、梓の歓喜の声が広がった。
10周年企画
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