今夜だけ

ダリ梓7

※やや艶めいた創作になります。


「ん……っ」

指を柔く食む唇の感触に肩が震える。
もうそこには紅茶などなく、彼が真っ先に気にかけた火傷もないと分かっているのに、執拗に繰り返される行為に梓の頬が朱に染まる。

「ダリウス……っ、もう平気だから!」
「そうだね。君が無事で良かった」

同意の言葉を聞いてようやく解放されると思った手は、けれども一向に放されることはなく、再び降り落ちてきた唇に肩だけでなく震える。

「ダリウスっ!」
「甘くて……放しがたい」
「……っ、紅茶ならまだテーブルにあるでしょ?」
「違うよ。甘いのは君だよ、梓」

チュッと指先に口づけられて、さらに濡れた感触に息を飲む。

「ダリウス、冗談はやめて!」
「俺が冗談でこんなことをしないのは、君が一番知っているんじゃない?」
「……っ」

向けられた瞳は熱を孕んだもので、彼がどんな時にその瞳を向けるのか分かっていたから、梓の手が震える。
それは幾度かの夜を共にした時に向けられる、狂おしい程に彼が自分を求める時に見せるもの。

「ア……ッ!」

やんわりと食まれ、舐める舌の感触に、ぎゅっと結んでいた唇から声がほろりとこぼれてしまう。
二人とも服を身に纏い、シーツの上にさえ寝転んでいないのに、漂うのはどうしようもなく夜の気配で。
指先を嬲る――ただそれだけの行為がこんなにもこの空間を淫らにしていた。

「ん……」

震えの止まらぬ指先に身体が熱くなって、潤む視界に声を震わせてダリウスに乞う。

「やめ、て……っ」
「本当にやめて欲しい?」

圧倒的な艶を身に纏うダリウスに、かくりと膝から力が抜けて崩れ落ちると、彼の腕に抱き止められる。

「おっと。少し苛めすぎたかな?」
「……ダリウスってこういうのが好きなの?」

すっかり力の入らなくなった身体に抗議の眼差しを向けるも、返ってくるのは涼しげな笑み。

「俺は君のすべてが愛しいんだよ」
「エッチ……」
「ふふ、それは誉め言葉として受け取っておこうか」

そんなわけないと言い募れないのは、自身に灯った熱をこのままにするのは難しいと悟ったから。
いやらしいとか、恥ずかしいとか、思わないわけではないけれど、それよりも今はこの熱をどうにかしてほしくてダリウスにすがる。
今夜だけ、と素直に身を預けると、正しくその意を理解した彼に抱き上げられて、向かうのは部屋の奥のベッド。
梓が無抵抗なことに嬉しそうに顔をほころばせるダリウスに、どうしたって振り回されている自身を理解して、「ダリウスのバカ」と小さく呟いた。
11th記念創作
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