「Trick or treat?」
求めに応じて告げてみると、はいどうぞと籠いっぱいのお菓子を手渡される。
「ダリウス……これは多すぎだよ」
「そうかい? そう問われたらお菓子をあげると聞いていたから、その通りにしたつもりだったんだけどね」
にこにこと楽しそうなダリウスに、詳しく言わなかった自分が悪いのか、手の内に入れた人間に殊更甘いダリウスの性格故か軽く悩むが、結局はありがとうと言うしかなく、梓は傍らのクッキーに目をやる。
この邸でハロウィンをすることが決まって、梓は厨房を借りて今日のためにクッキーを焼いた。
もちろん決まり文句を言われた際にあげるためのお菓子だったが、あまりにもダリウスのくれたものと見合わず、もっと色々用意しておくべきだったと後悔した。
(でもルードくんにはかなわないものなぁ……)
料理上手なダリウスの従者は菓子作りも得意で、梓の拙いクッキーとは比べ物にならない菓子を沢山作っていた。
(コハクのおねだりに頷かないで、お店で買えばよかったかも)
梓の作った菓子が欲しいと駄々をこねるコハクに、クッキーぐらいなら可能かと安易に了承したのが失敗だった。
「では今度は俺の番だね。Trick or treat?」
「……はい」
小分けしたクッキーを差し出すと嬉しそうに受け取ってくれたダリウスに、けれども梓の気は晴れない。
「梓? どうしたんだい?」
「ダリウスからもらったものと差がありすぎて申し訳なくて……」
「そんなこと気にする必要なんてないよ。……でもそうだね、君がどうしても気になるなら、もう1つお願いしてもいいかい?」
少し考えるそぶりを見せたダリウスの提案に身を乗り出すと、音もなく唇が重なって。
遅ればせでキスされたことを悟り頬を赤らめると、にこりと綺麗な笑顔がおねだりする。
「次は梓。君からしてくれる?」
「…………え?」
一瞬意味が分からず呆ける――が。
「!!!!」
何を求められているのかわかるや、先程の比ではなく真っ赤に染まった顔に、それでもダリウスが要求を取り消す気配はない。
(これは……するまで終わらないよね)
長くもないが短くもない付き合いで知ったダリウスの性格を考え、梓は何とか落ち着こうとする。
そうしてようやくパニック状態から少しだけ気を落ち着けると、意を決してキスをした――が。
「違うよ梓。俺が君にしたキスはそこじゃないよね?」
「…………っ」
頬へのキスじゃ許してはくれないらしく、梓は覚悟を決めると目をつむって彼の望む場所へと口づけた。
初めて自分から触れた唇の感触は滑らかで柔らかくて、ダリウスは全てが綺麗なのだと改めて実感する。
「……これでいいよね?」
「ありがとう。今度は俺がお返しする番だね」
なんでと問い返す前に再び重ねられた唇は、先程のキスより少しだけ大人めいたもので、梓は永遠に抗議の言葉を失った。
2018ハロウィン企画