「どうかしましたか?」
不意に手を伸ばし髪に触れたまま黙したあかねを、頼久は不思議そうに問うた。
「もったいなかったかな、と思って」
「もったいない?」
「頼久さんの髪。あんなに長かったのに、ばっさり切っちゃったから」
あかねの言葉に、ああと彼女が触れている己の髪を目に映す。
京にいた頃は腰ちかくまであった髪は、この世界に来て天真のように短く切りそろえていた。
「長いままの方が良かったですか?」
「ううん。短い髪の頼久さんもすごくかっこよくて好きなんです。だけど……」
指の隙間からさらさらとこぼれ落ちる髪があまりにも美しいから、つい惜しむ気持がわいてくるのだ。
「あかねは伸ばさないのですか?」
「私?」
「はい」
「頼久さんは伸ばした方が好きですか?」
「いえ、私はどちらでも」
そういえば高校に上がる頃に切って以来、ずっと短かったことを思い出した。
「そうですね、久しぶりに伸ばそうかな。成人式もあるし」
「成人式?」
「はい。この世界では成人したお祝いに、二十歳の時に祝典が行われるんです」
成人式では振袖を着るから、それまでに髪を伸ばして自分の髪で結うのもいいかもしれない。
そう思い、あかねが微笑む。
「……その祝典、お供をしてもよろしいですか?」
「え?」
思いがけない頼久の申し出。
通常成人式は同級生と行くことが多く、恋人同伴は考えもしなかった。
「別にいいですけど…どうして行きたいんですか?」
「私もあなたが成人となられるのを共に祝したいんです」
誰よりも先に祝したい。
それは秘めた独占欲。
そんな浅ましい己を胸の内で嘲笑しつつも、それでも寄り添いたいと願いを口にした。
はたして、それは笑顔とともに了承された。
「頼久さんにエスコートしてもらえるなんて嬉しいです」
「ありがとうございます」
嬉しそうに腕を絡めるあかねに微笑んで、並んで道を歩いていく。
さらさらと、背で揺れる柔らかな髪の幻影を、遠く思い描いて。