恋音を数える日々

頼あか5

「どうかしましたか?」
不意に手を伸ばし髪に触れたまま黙したあかねを、頼久は不思議そうに問うた。

「もったいなかったかな、と思って」
「もったいない?」
「頼久さんの髪。あんなに長かったのに、ばっさり切っちゃったから」

あかねの言葉に、ああと彼女が触れている己の髪を目に映す。
京にいた頃は腰ちかくまであった髪は、この世界に来て天真のように短く切りそろえていた。

「長いままの方が良かったですか?」
「ううん。短い髪の頼久さんもすごくかっこよくて好きなんです。だけど……」

指の隙間からさらさらとこぼれ落ちる髪があまりにも美しいから、つい惜しむ気持がわいてくるのだ。

「あかねは伸ばさないのですか?」
「私?」
「はい」
「頼久さんは伸ばした方が好きですか?」
「いえ、私はどちらでも」

そういえば高校に上がる頃に切って以来、ずっと短かったことを思い出した。

「そうですね、久しぶりに伸ばそうかな。成人式もあるし」

「成人式?」

「はい。この世界では成人したお祝いに、二十歳の時に祝典が行われるんです」

成人式では振袖を着るから、それまでに髪を伸ばして自分の髪で結うのもいいかもしれない。
そう思い、あかねが微笑む。

「……その祝典、お供をしてもよろしいですか?」
「え?」

思いがけない頼久の申し出。
通常成人式は同級生と行くことが多く、恋人同伴は考えもしなかった。

「別にいいですけど…どうして行きたいんですか?」

「私もあなたが成人となられるのを共に祝したいんです」

誰よりも先に祝したい。
それは秘めた独占欲。
そんな浅ましい己を胸の内で嘲笑しつつも、それでも寄り添いたいと願いを口にした。
はたして、それは笑顔とともに了承された。

「頼久さんにエスコートしてもらえるなんて嬉しいです」
「ありがとうございます」

嬉しそうに腕を絡めるあかねに微笑んで、並んで道を歩いていく。
さらさらと、背で揺れる柔らかな髪の幻影を、遠く思い描いて。
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