「こんなところで寝ていると風邪ひいちゃいますよ?」
前髪をそっと払う柔らかい手に、友雅は伏せていた瞳を開く。
「やあ、かぐやの君。今日も麗しいね」
友雅の戯言にはすっかり免疫が出来てるあかねは、あっさりと流す。
「朝の空気が気持ち良くて、少し早めに出てしまったのでね。木々のさざめきに耳を傾けていたんだよ」
「待たせちゃったんですね。ごめんなさい」
あかねと待ち合わせた時間は10時。
時計はその3分前を示していた。
「君が遅かったんじゃないよ。私が一人心地よさに浸ろうと思って、早く来すぎただけだ」
自分の責にする優しいあかねに、頭を引き寄せ口づける。
「と、友雅さん! 外ではダメですよ!!」
真っ赤になって抗議するあかねに、友雅がくすりと口の端をあげる。
「かぐやの君は本当に可愛らしいね。恥らう姿が可憐で、つい苛めてしまう」
「もう……っ」
艶やかな笑みを向けられ、照れながらもあかねは許してしまう。
友雅の笑顔は美しくて、あかねはいつも見惚れてしまうのだ。
「今日はどこへお供すればいいのかな?」
「最近出来たショッピングモールです」
身を起こす友雅に、にっこり笑って雑誌を広げる。
そこはこの前モデル仲間から聞いた場所だった。
あかねと共にこの世界へとやってきた友雅は、モデルの仕事を始めたのである。
「友雅さんも載ってるんですよ、この雑誌」
「働かないわけにはいかないからね。楽な職を選んだまでだよ」
ただそこに立っているだけで、見る者を惹きつける輝きをもつ友雅には天職とも言えた。
「何か友雅さんの隣にいるのが私でいいのかな~なんて、最近思っちゃいます」
「何を言うんだい? 私の方こそ、君の傍らに立つのが私でいいのかと常々思っているのだよ?」
ちょっと寂しげに笑うあかねに、友雅はふふっと艶やかな笑みを漏らす。
あかね自身は気づいていないが、彼女の魅力は遙かなる時空を超えた京で、八葉全て……さらには鬼の首領までもを魅了していた。
「かぐやの君はご自分をお分かりではないようだね。こんなにも私を惹きつけてやまないというのに……」
「え?」
「いや、それでは行こうか? 愛しい神子殿」