そっと撫でる頬

友あか6

バレンタインのチョコを差し出すと、いつもながらの彼の甘言に頷けば、チョコと共に手を取られて、そっと頬を撫でた手に顔を赤らめる。

「ふふ、私の白雪が南天のように色づいたね」

「と、友雅さん。チョコ食べないんですか?」

「もちろんいただくよ。けれども言っただろう? 私の手に渡れば菓子はもちろん、君の心も二度と返さないよと」

「えっと……?」

「遠回しな言葉では君には伝わらないようだからね。君にもわかるように伝えたつもりなんだけどまだ足りないらしい」
頬に添えられていた手はそのままに、人差し指だけが緩く動いて耳をかすめて、くすぐったげに目を細める。

「この菓子は君の想いを形にしたものなんだろう? さしずめ君からの恋文といったところか」
「恋文……」

恋文すなわちラブレター。
想いを形に……と、先程の友雅の言葉を頭の中で反芻して、ようやく彼の言いたいことを理解する。

「えっと……そう、です」

想いを形に……それは友雅への好きという想い。
バレンタインデーはこれまでは天真や詩紋、父にあげるぐらいだったが、今年は真っ先に友雅を思い浮かべた。
この世界に来て間もない彼がこの風習を知っているとは思わなかったが、それでもあげたいと思ったのはあかねの友雅への想いゆえ。
けれども、好きという感情で異性にチョコをあげたのは初めてだから、それを改めて突きつけられると無性に恥ずかしくなった。

「あ、あの! やっぱり食べるのは後でもいいです!」

急激に恥ずかしくなってあかねが逃げようとするより早く抱き寄せられて、腕の中で身を縮こまらせていると微笑む声が聞こえて。
髪にふわりとキスが降り落ちる。

「と、友雅さん……っ」
「言っただろう? 私の手に渡ったら返さないと」
柔らかに頬を包まれ、上向くと艶めいた瞳に囚われる。

「一月後の返礼のときにはもちろん君も私の想いを受け取ってくれるね? その証をくれないかい?」

問いに承諾を答える間もなく、唇にぬくもりが重ねられた。
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