巡り会った季節

遙か1

桜が舞う。
今年も桜の季節がやってきた。
はらり、はらりと舞い降りる淡い薄紅の花弁を見上げていると、愛しい男性が隣りへ立った。
どうしたのかと問われ、その腕に指を絡めながらもう一度桜を見上げる。

鮮やかに蘇る記憶。
遠い時空を隔てやってきたこの京で、あかねはかけがえのない人達と出会った。
戸惑い、泣いて、笑い、愛しんで。
絆を深め、今、あかねはここにいる。


「あかねちゃんー!」
手を振り駆けてくる詩紋とイノリに振り返して、並び立つ男性に微笑みかけた。

「私、桜が大好きなんです」
向けられた愛おしむ瞳に、桜の花弁を抱きしめるように手を伸ばす。

「だって、桜は愛しい人達に出会った季節だから」


桜が降る季節に、アクラムに喚ばれあかねは京に来た。
服や言葉、時空さえも違うこの場所で、神子と呼ばれ京を救ってほしいと頼まれた。
突然のことにわけがわからなくて、それでも藤姫の必死な様子に否と言えなくて頷いた。

怨霊に脅える人々。
そんな京の人々に恐れられていた、鬼と呼ばれる異国の人々。
なぜ髪や瞳の色が違うというだけでこれほど嫌がるのかがわからなくて、言われるがまま対立するなんて出来なくて。
八葉や藤姫の目を盗んで、アクラムと会ったりもした。
だけどアクラムもまた京の人々を蔑んでいて、積み重ねられた年月が両者を相容れぬものにしていた。

惑いながらも、神子として己に出来る事があるならと、八葉と共に京中を駆け回り怨霊を封じる毎日。
そうした中であかねは八葉と絆を深めていった。
だから、アクラムが己を贄として黒龍を喚んだあの時、自分も龍神を喚ぶ決意をした。
頼久さん、天真くん、詩紋くん、イノリくん、鷹通さん、友雅さん、永泉さん、泰明さん、藤姫。
京を……大切な人を守るために。


『消える……』と思った。
瞬く光の内に身体を巡る感覚が軽くなって――失くなって。
これが『龍神を喚ぶ』ということ。
黒龍と白龍がせめぎあって、破壊は止められた。
そのまま『消えた……』と……思った時。
あの人の声が私を呼び戻してくれた。


「ほら見ろよ! 詩紋のやつが作ったんだぜ」
「蒸しケーキもあるよ。あかねちゃん、好きでしょ?」

楽しげにご馳走の入った重箱を抱えた二人に微笑んで。
桜の木の下で待つ仲間の元へと歩いていく。
今日はみんなでお花見。
出逢った季節を喜んで、みんなで幸せをかみしめるの。

「あかねー早くこいよ! 藤姫が持ってきたご馳走なくなっちまうぞー!」
「げっ! いくぞ、あかね、詩紋!」
「待ってよ、イノリくん!」

天真の呼びかけに、慌てて走り出したイノリの後を追いかける。
そんな私達を微笑みながら見守るあなたを振り返って。
手を差し伸べて誘う。

誰かを想う願いが、あの時神の力を覆した。
だからずっと一緒にいよう。
大好きなあなたと共に、出会ったこの桜の季節を抱きしめて――。
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