覚えていてください

瞬ゆき5

「ゆき!」
傾いだ身体を抱きとめて、青ざめた顔に息をのむ。
それはあの異世界で何度となく見た光景。
瞬の顔から血の気が失せた。

「ゆき、しっかりしてください。ゆき!」

白龍の力を行使するために、自らの命を贄に差し出していたゆき。
龍の糧とされ、命を削られていた事実が身を粟立たせる。
彼女を失う?
そんな恐怖が瞬を支配する。

「……瞬兄……?」
小さな呼びかけに、慌ててその身を診て。

「どこか痛いところは? 苦しいところはありますか?」
「大丈夫……ちょっと立ちくらみ……」
「大丈夫じゃありません!」
思わず怒鳴り返して、はっと口を覆う。

「大きな声を出してすみません。でも、俺に嘘は言わないでください。……本当に辛いところはないのですか?」
脈拍を測りながら再度問うと、ゆきは頬を赤らめ顔を逸らした。

「……生理なの」
「………は?」
「……生理がきたの久しぶりで……ちょっと重くて……」
ゆきの言葉に緊張が解ける。

「……帰りましょう」
「瞬兄?」
「これ以上無理をして倒れられたら困ります。遊園地はまた今度にしましょう」
有無を言わさずゆきを背にのせると、悲しげな呟きが耳に届く。

「すごく楽しみにしてたのに……」
今日は二人が恋人になって初めてのデート、のはずだった。

「無理をしなくても、遊園地にはいつでも行けます」

「だって初めてでしょ? 二人だけで行くの。
どのお洋服を着るか、昨日からずっと悩んでたのに……」

そうして遅くまで起きていたことも貧血の原因なのだろう、とため息をつくも、自分とのデートをそれほどまでに楽しみにしていてくれたことが嬉しくて、つい微笑んでしまう。

「今日はあなたの部屋で映画鑑賞をしましょう。観たいと言っていたものがあったでしょう?」
「あ、そういえば先週レンタル始まってた」
「帰りに寄って借りましょう」
「うん」
ようやく元気の戻った声に、来た道を引き返す。

「……ごめんね、瞬兄」
「謝る必要はありません」
「でも、瞬兄も楽しみにしてたでしょ?」
「俺はあなたと一緒ならばどこでも構いません。遊園地でも、あなたの部屋でも」
そう、瞬にとって何よりも大切なことは、ゆきと一緒にいることなのだ。

「私も瞬兄が傍にいてくれればいい」
「ゆき」
「でも、遊園地はまた行こうね。……瞬兄との大切な思い出の場所だから」
「…………っ」

無垢な言葉に息をのむ。
こうして無造作に投げかけられる言葉に、いつだって動揺させられるのは瞬だった。

「瞬兄? どうしたの?」
目立たぬ路地裏に連れて行かれ、首を傾げたゆきに降る熱い口づけ。
突然のことに驚いて、重ねられた唇にただ身を委ねる。

「……あまり俺を煽らないでください」
「私、煽ってなんか……」
「あなたの言葉がどれだけ俺の心を揺さぶるのか……後でゆっくり教えてあげます」

そう微笑む瞬の顔はあまりにも魅惑的で。
つい頷くと、苦笑交じりにもう一度口づけられた。
Index Menu ←Back Next→