俺だけの特権

瞬ゆき4

「あ……」
ゆきのバッグから転げ落ちたそれに、瞬は目を見開いた。

「これは……もしかして俺が贈ったものですか?」
「うん」
「では、今日あなたがつけている口紅は……」
「そう。この紅」
ゆきの唇を彩る淡い色合いには、確かに見覚えがあって。

「…………っ」
急速に熱を孕む顔を、掌で覆い隠す。

「瞬兄?」
「……ずっと持っていたんですか」
「うん。だって瞬兄がくれたものだもの」
告げられる言葉全てが愛しくて。
思わずその身を抱き寄せる。

「瞬兄、ちょっと苦しい……」
「すみません。でももう少しだけ、このままで……」
思いがけない喜びに胸が打ち震えて。
ゆきを抱きしめずにはいられなかった。

「これを贈った時、もしもあなたが見つけられなかったら、そういう運命だったのだと……それでいいと思いました」

「そんなのダメ」

「けれど、あなたは見つけた」

紅の付け方を教えた時のように唇に触れて。
その紅を奪うように口づける。

「紅をつけたあなたを見た時、できることなら着飾ったこの姿は俺だけの前でと、そう願ったんです」

「……瞬兄に紅が移っちゃうよ?」

「ならばもう一度あなたに返せばいい」

頬を赤らめたゆきに口づけて。
紅を贈るのも、奪うのも、自分だけだと伝えた。
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