キスがその答え

瞬ゆき3

「ねえ、お姉ちゃん。瞬兄の初恋の相手って知ってる?」
「瞬兄の初恋の相手?」
突然の問いに首を傾げると、無邪気に笑う祟。

「瞬兄の初恋の相手はね、『神子』だよ」
「え?」
「僕たちの世界の伝承の中の龍神の神子。僕達が仕えるように言われてきた『神子』様なんだよ」

祟の言葉に黙り込むと、その様子に満足したのか、じゃあねと手を振り去っていった。

「瞬兄の初恋は『神子』……」

確かに幼い頃、実の母に言い聞かせられていたと、聞いたことがある。

「じゃあ、瞬兄が好きなのは……」
「ゆき」
顔を曇らせると、後ろから声。
それはゆきの大好きな、ちょっと低めの落ち着きのある声。

「瞬兄」
「どうかしましたか?」
ゆきの様子がおかしいことにすぐ気づくところは、さすがという他ない。

「ねえ、瞬兄」
「はい」
「瞬兄が好きなのは……神子である私?」
ゆきの問いに目を見開くと、押し殺した声で彼女を見つめる。

「どうしてそんなことを確かめるのですか?」

「……祟くんが、瞬兄の初恋の相手は『神子』だって。だからもしかして瞬兄が私を好きなのは、神子だからなのかな、って」

ゆきの返答に深く息を吐くと、瞬はその肩を掴んで目を合わせた。

「俺が好きなのはゆき、あなたです。神子は関係ない」
「でも……」
「俺の言葉を信じられませんか?」
瞬の瞳に偽りは見えなくて、ふるふると首を横に振る。

「ううん。瞬兄を信じてる」
「祟の言葉は気にしないでください。ただの戯言です」
「うん」

瞬の言葉に頷いて。
けれども、胸に刺さった小さな棘は抜けなくて。
気持ちがどうしても晴れない。

「……ゆき」
小さく息を吐いた後、名を呼ぶ声に振り返ると抱き寄せられ。
突然の抱擁の理由がわからずに、瞬を仰ぎ見た。

「まだ不安が拭えないのなら、何度でもあなたに想いを伝えます。ゆき、俺はあなたを愛してる」
「………っ」
捧げられた愛の言葉に、かあっと頬が熱くなる。

「……ありがと、瞬兄」
「信じてくれましたか?」
「うん……信じるよ」

照れくさくて視線をそらせていると、大きな掌が頬を撫で。
熱い口づけが降ってきた。

「ん……瞬兄……」
「俺を疑った罰です」
「お母さんに見られちゃうよ」
「先程出かけました」
「祟くんは……」
「構いません」
反論を全て封じこめ、何度も何度も口づける。

「……瞬兄のばか」
「戯言で疑われることがないように、あなたへの想いを伝えたまでです」

悪びれることなく告げる瞬に、ゆきは赤らむ頬を隠すように、その胸に顔を埋めた。

「私も……瞬兄が好き」
「………っ」
想いを告げると、びくりと大きく震えた身体。

「瞬兄?」
「あなたは……」

首を傾げるゆきに、掌で赤らむ顔を隠す。
翻弄したつもりが、いつの間にか逆転する。
そんなにも瞬の心を揺さぶるのは、ゆきだけだった。

「ゆき」
「瞬に……んん……」
「俺を煽った責任をとってください」

返事は聞かず。
力の抜けた身体を支えながら、甘い唇に酔いしれた。
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