振り向かないで

瞬ゆき2

着替えようとして、ふと触れた首元の飾り。
それはこの世界にやってきた時、瞬に与えられたものの一つ。
首を絞めつける窮屈なそれに、しかし瞬は安堵を覚えた。
やがて来る定められた運命。
首飾りは、余計な感情に振り回されずに一族の使命を全うしろという、龍神の意志のようだった。

たとえこの先の未来に自分が存在しなくとも。
それでも彼女を――龍神の神子を守るのが、己が一族の……自分の使命。

「だから…俺のことなど捨て置いて下さい」
身体を気遣い、一人薬を買いに行ってくれたゆき。
それを嬉しい、と。
そう、思ってしまった。

「…………っ」
振りむいてはいけない。
決して認めてはならない。
彼女はただ一人のものではなく、皆を救う清き龍神の神子なのだから。

「……ゆき……っ」

それでも募る思慕。
抗えぬ恋情に、瞬はゆきが買ってきてくれた薬を手に取ると、苦痛に眉を歪めながら飲み込む。
―――想いを再び奥底に封じ込めるように。
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