贈り物

瞬ゆき12

一人リビングで座っていたゆきは、困ったように眉を歪めた。
彼女が悩んでいるのは、差し迫った瞬の誕生日プレゼント。
友人に相談したところ、冬ということで定番のマフラーを勧められたが、実は以前編み物を瞬自身に教えてもらい、その時作った品をそれぞれ交換したことがあり、今回再び贈るのは躊躇われた。

「瞬兄が好きそうなものが浮かばない……どうしよう」
もともと物欲の少ないこともあり、瞬が喜びそうなものが浮かばず、ゆきは途方に暮れてしまった。

「―――ゆき?」
「瞬兄……」
「どうかしましたか?」

お茶を飲みに来たのだろう、カップを手にした瞬に、ゆきは困ったように見上げた。
本来ならば贈り物は内緒の方が楽しいものだが、贈れないよりはいいと思いきって本人に聞くことにした。

「あのね? もうすぐ瞬兄のお誕生日でしょう? だから何か欲しいものあるかなって」

「あなたはまだ学生ですから、俺の誕生日などにお金をかける必要はありません」

予想通りの答えに、けれども納得できるはずはなく、ゆきは眉を下げた。

「でも私は瞬兄に贈りたい。できれば喜んでもらえるものがいいもの」

「……では、誕生日当日俺に付き合ってもらえますか」

「うん。瞬兄に選んでもらう方がいいと思うから」

「いえ、買いたいものがあるわけではなく……ただ、その……あなたと一緒に過ごしたいんです」

ほんのりと目尻を赤く染めた瞬に、ゆきは瞳を瞬くとふわりと微笑んだ。

「うん。私も一番に瞬兄をお祝いしたい」
「ありがとうございます」
「それで一緒に選ぼう?」
「プレゼントはいりません」
「それはダメ」
「ゆき……」
頑なに譲らないゆきに、瞬は小さく息を吐くと思案を巡らせた。

「プレゼントは物でなくともいいですか?」
「物じゃないプレゼント?」
「はい」
瞬の言うことが分からず、ゆきは瞳で先を促した。

「―――キスを」

「え?」

「あなたからキスをもらえますか? 俺からしたことはあっても、あなたからは今までありません」

「でもそれは、瞬兄がダメだって……」

「あれは挨拶のキスは不要だと言っただけです」

外国での暮らしが長かったため、あちらの習慣に合わせておはようやおやすみなどに頬にキスをしようとすると、俺たちは日本人なのですから不要です、といって頑なに瞬は拒絶していた。

「俺が欲しいのは挨拶のキスではありません。恋人のキスです」
「恋人のキス……」
「はい」

瞬の言葉を噛みくだいて……ようやく理解したゆきは、ほんのりと頬を染めた。
瞬がゆきにくれるキス。
それが恋人のキス。

「……うん」
恥ずかしくて、視線をそらし小さく頷く。
瞬が望むなら……叶えたいと思うから。

「ありがとうございます」
ふっと柔らかな笑みを見て、ゆきもつられて微笑んだ。
誕生日には愛しい思いを込めたキスを――。
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