不意に襲う眩暈。
それは白龍の力を使う度に命が削られる代償。
だから、ゆきは皆に気づかれぬよう、不調を隠してきた。
しかしそんなゆきの異変に気づき、いつも真っ先に気遣うのは桜智だった。
「……大丈夫? ゆきちゃん…」
「うん。もう落ち着いたから」
「今日はもう予定もないし……少し横になるといいよ」
桜智の勧めに、いつかの光景が蘇り顔が強張る。
「……ゆきちゃん?」
「……大丈……夫」
「ゆきちゃん……」
青い顔でそれでも首を振るゆきに、諭すような桜智の声。
その何もかもわかっている落ち着いた声に、ゆきはそっと震える手を握った。
「……ごめんなさい。ちょっと怖くなっただけなの」
「怖い……?」
「うん」
一緒に寝ころんだ彼の呼吸がとまって。
眠るように逝ってしまった桜智。
あの日からゆきは眠ることが怖くなっていた。
「……ゆきちゃん。抱きしめても……いいかい?」
以前と同じく、優しい腕がそっとゆきを抱き寄せる。
「……君が怖くないように……少しでも安らげるように」
「桜智さん……」
身体を包むぬくもりに、頬から伝わる鼓動に安心して。
ゆっくりと瞼が重くなる。
「大丈夫だから……私はずっと君の傍にいるから……だから眠って……」
「うん……」
子守唄のように優しく紡がれる声が、ゆきを眠りへと誘っていく。
不意に目を覚まして、桜智の鼓動を確認して。
安心して再び目をつむる。
それを繰り返すうちに、いつしかゆきは再び眠れるようになっていた。
――ただし、桜智の腕の中限定で。
「……おい! どうしていつもお前がゆきと一緒に寝てるんだよ!?」
「それは……ゆきちゃんが安心して眠れるように……」
「私、桜智さんが傍にいないと眠れないの」
恥ずかしそうに頬を染めるゆきに、反論を封じられた都が地団駄を踏む。
「まぁ、桜智は純粋にゆきくんを心配してのことだろうけど。本当に得な性格だよね」
「ああ。あれだけ毎晩一緒にいながら、お嬢に口づけ一つしてないぜ、きっと」
* * * ED後・現代にて * * *
「桜智さん、どうしたのそれ?」
「安眠できるとあったから……あの……よければゆきちゃんに……」
桜智が抱えているのは、手一杯の安眠グッズ。
アロマオイルにCD、はては安眠枕まで。
「……ゆき、本当にこいつでいいのか?」
うんざり顔の都に、しかし当のゆきはにこり笑顔で礼を言う。
「ありがとう、桜智さん」
「ゆ、ゆきちゃん……!」
「でもね……? 私は桜智さんがいてくれたら眠れるから……」
「そ、それは……もしかしてプロポーズ……!」
「いや、違うから」
一人妄想の世界に旅立つ桜智をばっさり切ると、都は心底嫌そうに深々とため息をついて一人先に帰るのだった。