あたたかな雪

帯ゆき6

「あ……」
廊下を歩いていたゆきは、ふと見た外の景色に立ち止まった。
庭に降り立つと、舞い降りる白い結晶に嬉しそうに目を細める。

「雪…」
ふわり、ふわりと降り積む雪が楽しくて空を見上げていると、じゃり……と石を踏む音が耳に入る。

「こんなところで何をしてるの?」
「帯刀さん。雪を見ていたんです」
「雪……ね。まったく……」
ふぅと息を吐き出すと、羽織っていた衣をかけられる。

「あ、すみません。帯刀さんは寒くありませんか?」

「寒いよ。だから早く君が邸に戻ってくれるとありがたいんだけど?」

「はい。わかりました」
素直に頷くゆきに帯刀も微笑むと、その肩を抱いて邸の中へと引き返す。

「雪が珍しかった?」

「あ、いえ。留学先でも雪は降りましたから。
そういえば、帰国した頃は冬だったなって思ったんです」

「……そう」

ほんの一年程度のことだというのに、ひどく懐かしく感じられる。
そんな感傷に囚われていると、不意に後ろから抱き寄せられた。

「帯刀さん?」
「君は……いや、何でもないよ」
何かを言いかけ、言葉を濁した帯刀をじっと見つめて。
ふわり、とほころぶ笑顔。

「帯刀さんと初めて見れた雪ですね」
「……っ、君は本当に私を振り回すのが上手だね」
「?」

元の世界に帰りたいのかと、そう沈みかけた気持ちをすくいあげたのはささやかな一言。
ゆきに泣いて乞われたらきっと自分は否とは言えないだろうというぐらい、帯刀は彼女という存在に囚われていることを認識する。

「今度雪見がてら龍馬のところにでも行こうか」
「はい」
共に彼女を守護した友人の名を挙げればますます笑顔が広がって。
重症だな、と我知れず苦笑が漏れた。
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