髪を一房すくい上げる

帯ゆき5

ふわりと掌にさらわれて、髪を一房すくい上げられる。

「帯刀さん?」
「なに?」
「髪をいじるのが好きなんですか?」
「は?」
「だって、よくこうして髪に触れますよね?」

顔を傾ければ口づけることさえ可能な距離で、ゆきが言うことといえばまるで艶めいた空気はなく、小松は呆れたように髪を逃がすと肩をすくめた。

「……君は本当に色事に疎い子だね」
「?」

髪に触れるという行為は、好きな女性に近づきたい、少しでも触れたいという気持ちの表れで、男女の睦事の遣り取りの一つでもあるのだが、こういうことに疎いゆきにはまるで伝わらないらしい。

「私に髪を触られるのは嫌?」
「嫌じゃないです。嬉しいです」
「……そう」

無邪気に微笑む様に、年近い従姉の都に撫でられていた姿を思い出して、小さくため息をつく。
ゆきにとってはきっと都に触れられるのも、帯刀に触れられるのも大差ないのだろう。

「……でも時々、ドキドキして困ります」
「……君でもそんなふうに思うの?」
「? はい。帯刀さんに撫でられると安心して嬉しくなります。でも時々、すごくドキドキする時があります」
「そう、なんだ」
「はい」

照れくさそうに視線を外す様子は、帯刀を異性として意識していると教えてくれて、ふっと微笑むともう一度髪をすくい上げる。

「今は? ドキドキするの?」
艶を帯びた声で問えば、帯刀が醸し出す色気を察したのか、その頬が赤らんで。

「……ドキドキしてます」
小さな声で、それでも律儀に返事をするゆきに微笑んで。
ならもっとドキドキさせてあげる――と、指先を髪から頬へと移して、柔らかに唇を啄んだ。
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