「帯刀さんって目が悪いんですか?」
「は?」
「あ、悪いから眼鏡をしてるんですよね」
突然の質問に虚を突かれると、質問をした当の本人が一人納得してしまう。
「視力のことを言ってるなら眼鏡を必要としているよ。……君、そんなことが気になってさっきから私の顔を覗き込んでいたの?」
「はい。そういえば向こうでも眼鏡をかけてたなって思って」
無垢な返事に軽い頭痛を覚えて、帯刀ははぁと小さくため息をつく。
珍しく身を乗り出し、見つめてくるから、こちらは落ち着かない思いを抱えていたというのに、その理由が眼鏡とは。
「ゆきくんの周りにはいないの?」
「クラスメイトには何人かいます。別に物珍しかったわけじゃなくて、眼鏡を外したところを見たことがないな、と思ったんです」
「なんだ、そんなこと?」
こうした帯刀の思惑の斜め上を行くゆきの考えは今に始まったことではなく、帯刀はフレームに手をかけるとすっと取って見せた。
「別に外したからといって変わるものでもないでしょ」
「………………」
「ゆきくん?」
「………あ」
呆然と見つめているゆきを見返せば、どこか心あらずの様に首を傾げる。
眼鏡を取った姿の何が彼女の興味を引くというのだろう?
「なに? 私が眼鏡をしていないのがそんなに不思議?」
「そうじゃなくて……カッコイイ……」
「え?」
ぽつりとこぼれた呟きに驚き見返せば、ほのかに色づいた頬。
思いがけない反応に一瞬こちらも顔を赤らめるも、すぐに平静を取り戻してゆきの頬に手を添える。
「君は眼鏡を外した方が好きなの? ならコンタクトに変える?」
「あ、いえ。そこまでしてもらわなくてもいいんです。眼鏡をかけてる帯刀さんも素敵です」
「そ、う……」
振り回すつもりが思わぬ反撃を受けて赤らむ頬。
ゆきを振り回すつもりが、いつの間にか振り回されているというのは常で、けれども腹が立たないのは彼女に惚れているからだ。
「あ、でも、もう少しだけ外しててもらってもいいですか?」
「別に構わないよ。ただ……」
「ただ?」
きょとんと聞き返すゆきに微笑むと、鼻が今にも触れそうなほどに距離を詰めて覗き込む。
「これぐらい近づかないと君の顔がわからないから許可すること。否は受け付けないよ」
視力のせいにして距離を縮めると赤らむ頬に誘われて。つ、と唇を軽く食む。
「……君に口づけるときには眼鏡を外すといいことがわかったよ」