Sweet Halloween

アーネスト1

「Trick or Treat?」
突然の英語に、彼にしては珍しい、きょとんとした表情を見せたアーネスト。

「ハロウィン……そういえばもうそんな頃でしたね」

「うん。アーネストの国ではハロウィンはしないの?」

「我が祖国ではハロウィンよりガイ・フォークス・デーの方が盛んなのですよ」

「ガイ・フォークス・デー?」

「ええ。カトリック教徒弾圧に憤慨した一団が国王の暗殺を企て、 火付け役だったガイ・フォークスという男の名前をとってそう呼ばれるようになったんです。
子どもたちは町の通りにぼろ人形を作って置き、大人が歩いてくると『A penny for the Guy』 とねだるんですよ」

「そうなんだ」

「Trick or Treat?」
初めて知った英国での習慣にゆきが驚いていると、アーネストが笑顔で問い返す。


「え?」

「Trick or Treat? あなたはお菓子と悪戯、どちらを希望しますか?」

「アーネストの国ではハロウィンはやらないんじゃなかったの?」

「私が女性の好意を無にするわけがないでしょう? さあ、ゆき。どちらですか?」
思いがけず返されて、ゆきはうーんと考える。

「じゃあ……はい。さっき小松さんからもらった金平糖」
「可愛らしいお菓子ですね。では遠慮なく」
優雅に指を伸ばすと、ゆきの掌にのった小さな星の固まりをつまむ。


「そういえばアーネストは? 私に何をくれるの?」

「ふふ、覚えていたんですね。そうですね……では悪戯を」

「え?」

「あいにくと今日はお菓子を持ち合わせていないんですよ。なのでどうぞ悪戯を」

お菓子をもらって終わり、のつもりだったゆきは、思わぬ悪戯要求に必死に悪戯を考える。

「それじゃ……」
おもむろに手を伸ばすと、赤い石の飾られたタイを引く。

「ゆき?」

「アーネストはいつもきちんと身だしなみに気をつけているでしょう? だから、ちょっと着崩したところを見てみたくて」

思いがけない悪戯に目を丸くしていたアーネストは、不意に意地悪い笑みを浮かべると、つ……とゆきの頤に指を添えた。

「私が着崩した姿に興味があるなんて思いませんでしたよ。ふふ、それならばいつでもお見せできるのに」
「ん……」
ちゅっと口づけられ、浮かぶ身体。


「アーネスト?」

「ゆきが言ったんですよ? 私の着崩れた姿が見たいと」

「それはそうだけど……どうして抱き上げてるの?」

「ゆきにも協力してもらうためですよ」

そうして連れられて行くのは、アーネストの私室。
幸か不幸か今日はバークス卿も不在。
異国のイベントは、アーネスト好みの甘い一時へと変わったのだった。

 * *

時空を超えた世界で、所々に飾られているのはオレンジ色のカボチャ。

「そういえば、今年はやらないんですか? ハロウィン」
「……やらないもん」
「Trick or Treat? 今年も甘いものを私に……ねえ、ゆき?」
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