ハネムーン

龍ゆき3

「新婚旅行ですか?」
「ああ。お嬢はどこに行きたい?」
そう問われて、少し考えてからゆきは龍馬を見た。

「だったら龍馬さんが一番好きだと思った場所に行ってみたいです」

この世界に来てからしばらく、龍馬は様々な国を旅して歩いていた。
それこそ世界一周といえるほどを短期間で渡り歩き、見聞を広める彼から届く絵ハガキを楽しみにしていたものだった。

「そりゃいかんぜ、お嬢。それだとどこにも行けなくなっちまうからな」

「え?」

「確かに世界にはいろんな国があって人も物もそれぞれの良さがある。だがな、広い世界を知ったからこそ改めて日本の素晴らしさがわかった。
この国には外国に負けないぐらい、いいものがたくさんある。俺は日本が好きだってな」

きらきらと眩い瞳で語る龍馬は、あの世界で未来を信じ、走り続けていた頃と変わりなく、どこまでもまっすぐな彼を好きだとゆきは思う。

「……龍馬さん、素敵です」
「は?」
「私も、龍馬さんと出会えたこの国が大好きです」

始めは右も左もわからず戸惑っていたが、白龍の神子としての経験からゆきは日本史に強い興味を抱くようになった。
あの時龍馬たちが何を思い、戦っていたのか――異なる世界の彼らの歴史をたどり、改めて理解していった。
良い国を作る……その強い信念が、今この時を作り出したのだから。

「……よし。だったら日本横断と行くか!」

「え?」

「確かに世界は広いが、この日本も捨てたもんじゃない。まだまだ俺たちが知らないこともたくさんあるだろう。それをお嬢と二人で見聞するってのはどうだ?」

「……はい」

龍馬の提案にぱちぱちと瞬くが、それがとても素敵なことだとわかってふわりと微笑む。
同じものを見て、新しいものに触れて、笑ったり感動したり不思議に思ったりを共に感じ合う。 それはなんて幸せなことだろう。

「実はこの前、テレビで面白いもんを見てな」
すっかり使いこなせるようになったスマホで検索すると、差し出された画面を覗き込む。

「変なホテル?」

「ああ。なんでもロボットがスタッフで働いてて、人間は全然おらんらしい。コストカットや利便性の追求なんかは帯刀が評価しそうだな」

合理的であることを好んでいた小松と、新しいものへの知識欲旺盛な龍馬の視点の相違が面白く、そうですねと微笑んだ。

「他に龍馬さんが興味あるものはありますか?」

「そうだな……蝦夷――北海道の流氷っちゅうのも見てみたい」

「流氷ですか? あれは冬じゃないと無理です」

「うーん……それなら他にも…………」
問えば次々出てくる場所はゆきも行ったことがないもので、リストアップして先程のホテルと見合わせ、旅行先を練る。

「時期限定のものはまた別の機会にして、今回はスカイツリーとこのホテルなら叶うんじゃないでしょうか?」

「そうだな……っていかんいかん! これじゃあ俺が行きたいところになるだろ?」

「私、龍馬さんの楽しそうな姿を見るのが好きなんです。だから、龍馬さんが喜んでくれるところに行きたいんです」

「だがな……」
確かに興味のあるものは沢山ある。
けれどもそれでは普段と変わらない。
この旅行は物見遊山ではなく新婚旅行なのだから。

「そういえばこの近くにディズニーランドっちゅうものがなかったか?」

「龍馬さん、ディズニーランドに興味があるんですか?」

「今回はただの旅行とはわけが違うからな。お嬢も楽しめなきゃいかん」

「私は龍馬さんとだったらどこでも楽しいです」

「俺もお嬢と一緒だがな、今回は新婚旅行だ。このディズニーランドというのは恋人がよく行く場所なんだろう?」

「そう、なんでしょうか?」

「お嬢は行ったことはあるかい?」

「いいえ。まだないです」
少し前まで留学していたために日本の流行りに疎いゆきは小首を傾げたが、遊園地は幼い頃から好きだったので興味がわく。

「だったらディズニーランドも決まりだ。このホテルも近くにあるようだしちょうどいい」

「はい」

「よし。これならお嬢も俺も楽しめるな」

「ありがとうございます、龍馬さん」

「礼はいらんぜ。お嬢と俺と一緒に楽しむもんなんだからな」

「はい」
ふわりと微笑むと顔が近づいて、ちゅっと軽く唇が触れる。

「……!」

「……新婚旅行のことを外国じゃハネムーンと言うんだろ? ハネムーンは結婚式や新居の準備で忙しなかった夫婦が、仲睦まじく過ごすための大事な時間だ。だから俺らも仲睦まじく過ごさにゃならん」

「仲睦まじく……」

「ああ。もっと、今まで以上にお嬢と睦まじくだ」
再度啄まれて、彼の言う「仲睦まじく」が示すものを察して頬が赤らむ。

「あの……」
「ん?」
「……私も、仲睦まじくしたいです」
「……ああ! もちろんだぜ!」

恥ずかしさを感じながらも素直に想いを告げれば、龍馬は嬉しそうに笑って、もう一度とキスを降らせる。
そうして何度も繰り返されるキスに、気づくと天井を仰いでいて、彼の腕の中で一足早い蜜月に身を委ねた。
Index Menu ←Back Next→