着信を告げる携帯に画面を見れば、そこには大好きな人の名前。
『お嬢か?』
「はい。こんばんは、龍馬さん」
『お嬢の方も今は夜なんだな。この前は時差を忘れて朝早くにかけちまって、瞬に怒られちまったからな』
「ふふ、今はどこにいるんですか?」
『オーストラリアっちゅー国だ。着いたら夏でびっくりしてな!』
今、日本は冬。
真逆の季節であるオーストラリアに、飛行機を降りた瞬間の龍馬の驚きが目に浮かんで、ゆきはくすくすと肩を揺らす。
ゆきと共にこちらの世界にやってきた龍馬は、見聞を広めようと世界各地を旅して歩いていた。
本当はゆきもついて行きたかったが、学生の身ではそうもいかず、こうして時折かかってくる龍馬からの電話を楽しみにしていた。
『面白いもんを見つけてな、数日中には届くと思う』
「いつもありがとう、龍馬さん」
『なあに、お嬢がそうやって喜んでくれるなら本望さ』
旅先で珍しいものを見つけるたびに、ゆきに送ってくれる龍馬。
龍馬から送り届けられた物たちは、彼が今目にしているものをゆきも同じように見つめている気持ちにさせてくれた。
『もう少ししたら日本に一度戻ろうと思ってな』
「本当ですか?」
『ああ。だから、クリスマスは空けといてくれるか?』
クリスマス……龍馬の言葉にカレンダーに目を移す。
師走に入り、クリスマスまであと二週間程度。
もうすぐ会えるのだと思うと、ゆきの顔に笑みが浮かぶ。
「……はい。龍馬さんに会えるのを楽しみに待っています」
『おう。俺もお嬢に会えるのを楽しみにしてるぞ。風邪などひかんよう、しっかり食べてよく寝るんだぞ』
「ふふ、龍馬さん、瞬兄みたいなこと言ってます」
『あー瞬なら言いそうだな。だがこれはお嬢の恋人としてでな……』
「はい、わかってます。龍馬さんも身体には気をつけてくださいね」
『ああ。せっかくのお嬢との約束、むげにするような真似はせんゆえ、安心してくれ』
明るい龍馬の声に携帯を持ったまま頷いて、いくつかの雑談の後に電話を切る。
数日後、ゆきの家に届けられたのは、一枚のポストカード。
クリスマスカードらしいポストカードに描かれているのは、日本とは違ってバカンスを楽しんでいるかのようなサンタクロースで、その違いにゆきはくすくすと笑みを漏らす。
「ありがとう、龍馬さん」
傍にいれない分も、こうしてゆきに自分が見て感じているものを届けてくれる。
龍馬のその想いが嬉しくて、ぎゅっとポストカードを胸に抱く。
「お? ちょうどお嬢の元に届いたんだな」
「え? 龍馬さん?」
「おう。ただいま、お嬢」
「おかえりなさい……!」
思いがけない人の登場に、胸に広がる大きな喜び。
「今日だとは思わなくてびっくりしました」
「お嬢、それをちゃんと読んでなかったな?」
「え?」
にやりと微笑む龍馬に、もう一度ポストカードに目を凝らすと、賑やかなサンタクロースの絵の隅に、意志の強そうなしっかりとした文字で書かれていたのは、今日の日付。
「メリークリスマス!」
「ふふ、龍馬さん、クリスマスは十日後ですよ?」
「ありゃ? そうだったか? やはり慣れない英語は使うもんじゃないな」
照れくさそうに頬をかく龍馬に微笑んで。
ゆきはもう一度、おかえりなさいを告げると、そっと彼に抱きついた。