素で惑わすのは

忍千7

「う~ん」
腰にしがみつくや唸りだした千尋に、忍人は訝しげに彼女を見た。

「どうしたんだ?」
「……忍人さん、細すぎ」
ぼそっと呟かれた言葉に、忍人が瞳を丸くする。

「忍人さんってばどうしてそんなに細いんですか。ずるいですっ」

唇を尖らせる千尋に、しかし忍人は複雑な表情を浮かべた。
女にとってはどうなのか分からないが、男で細いといわれてもあまり嬉しいものではなかった。

「君も十分細いだろう?」
「なんだか負けてる気がします」

忍人の腰にしがみついたまま、千尋がはぁとため息をつく。
兄弟子ならばこのような時に気の利いた言葉で慰めるのだろうが、恋の機微に疎い忍人にそのようなことが出来るはずもなく。
一瞬考え込むと、腰にまとわりついていた千尋の腕を外して、おもむろに彼女を抱き上げた。

「お、忍人さんっ!?」
「軽い。君はしっかりと食べているのか?」
眉間のシワを深める忍人に、子供をあやすように空に高い高いで抱え上げられた千尋は、慌てて降りようともがく。

「重いですから降ろしてくださいっ!」
「軽いと言っただろう?」
顔色一つ変えることなく、こともなげに抱き上げている忍人に、千尋は顔を真っ赤にして頷いた。

「わ、わかりましたから! だから降ろしてくださいっ!!」
必死の訴えで降ろしてもらった千尋は、はぁ~と大きく息をはいた。
どくどくと一気に跳ね上がった鼓動に、全身真っ赤に染め上がる。

「忍人さんって時々すごいこと平気でしますよね」
天然の恋人の思わぬ行動に、いつも動揺させられてる千尋は、恥ずかしそうに忍人を見る。
しかし千尋の呟きに、それは君の方だと、同じく早鐘を打つ胸に忍人がひっそり頬を染めていたのは言うまでもない。
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