既視感

忍千6

忍人の腰にかかった二振りの刀を見ると、不意に襲われる既視感。
それは心臓を鷲掴みにされたような、痛みと苦しみを千尋に与えた。
どうしてそんなふうに感じるのか、理由は全くわからなかった。

そして破魂刀と同じように、桜を見るとたまらなく切なさを感じることがあった。
苦しかった戦いを終え、目指していた平和な国への一歩を歩みだしたというのに、なぜこんな気持ちになるのだろうか?
胸に押し寄せる感情の嵐に耐えようと、胸に手をやり俯いていた千尋は、突然肩をつかまれ反射的に顔を上げた。
そこにいたのは、彼女の最愛の男性である忍人。

「どうかしたのか? 顔色が悪いようだが……」
「あ……いえ、大丈夫です」
悪夢から覚めたかのように一瞬戸惑うが、気遣う声に慌てて首を振る。

「……本当に何もないのか?」
向けられた瞳は真剣で、千尋は思わず俯いてしまう。

「千尋?」
「……私もわからないんです。急に不安になって」
胸の内をうまく言葉に出来なくて、自然と曖昧なものになってしまう。
だが、千尋自身の戸惑いを感じ取った忍人は、それ以上追求はせずに千尋を胸に抱き寄せた。

「説明できないのであればそれでいい。だが、一人で苦しまず俺を頼ってくれ」

痛みや切なさ、それら全てはみんな忍人に結びつくものだったが、彼の胸に抱かれていると不思議と安らいだ。
痛みや苦しみを伴う既視感も、きっと忍人といれば大丈夫――。
不思議と確信がもてて、千尋はそっと忍人の胸に寄り添った。
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