「ふふふっ」
思い出し笑いをする千尋に、隣に並んで腰かけていた忍人は怪訝そうに彼女を見つめた。
「なんだ?」
「あ、ごめんなさい。初めて忍人さんに会った時のことを思い出して」
泉がとても綺麗で、朝の陽気に誘われ水浴びをしている時、偶然通りかかった忍人。
突然のことで身を隠す場所もなく、両腕で懸命に身体を隠して恥じらう千尋に、忍人が発した言葉は安易に剣を離していることへの注意だった。
「私は水浴びしている姿を見られてすごく恥ずかしかったのに、忍人さんったら顔色一つ変えずに注意だけしていくんですもの」
「あれは君が手元から武器を放しておくからだろう」
「まぁ、確かにちょっと軽率でしたけど……」
しかし、肌を覆うものが何もない千尋を目の前にしての反応としては、少々ショックなものだった。
「私、色気ないですか?」
「……は?」
「だって忍人さんったら、全く気にする様子なかったんですもの。私、裸だったのに……」
「いや、あれは……君が恥ずかしいだろうと思って何もないようなふりをしただけで……」
すねた様子の千尋に、忍人は慌てて弁明した。
「……水の精かと思った」
「え?」
「あ、いや。水の中に佇む君があまりにも綺麗で、精霊のように思えたんだ」
「忍人さん、本当ですか?」
「ああ」
照れくさそうに視線をそらす忍人に、千尋が嬉しそうに肩に寄り添う。
「そう言ってもらえて嬉しいです」
幸せそうに瞳を閉じて笑う千尋が愛しくて、忍人はそっと彼女の小さな唇に己のそれを重ねた。