「なんで千尋も入って来るんだよ!?」
「なんでって……お風呂に入りたいから」
「だったら僕の後に入ればいいだろ! 早く出てけよ!!」
「なんで那岐と一緒に入っちゃいけないの?」
不服そうに見つめる千尋に、湯船につかりながら那岐ははぁ~っとため息をつく。
「僕達中学生なんだよ? なんで12歳の男と女が一緒に入るのさ」
「なんで中学生になるとダメなの? 小学生だったら良かったのに?」
なおも食い下がる千尋に、「それは風早に無理矢理付き合わされてたんじゃん」と内心愚痴る。
豊葦原からこっちの世界にやってきたばかりの頃、惨劇を目の当たりにした千尋は精神が不安定で、なにかというと風早や那岐といたがった。
寝るのも……そしてお風呂も。
人並みに羞恥心もあり、もともと人との接触を避けている那岐は嫌がったが、「じゃあ俺が千尋と2人きりで入ってもいいんですね?」という含みを持たせた物言いに、渋々付き合っていたのである。
「あのさ~。中学生にもなって男と一緒に風呂に入ってるなんて知られたら、いらぬ誤解を受けるのは千尋だよ?」
「人の目なんていいの! 私は那岐と一緒に入りたいの!」
いくら那岐が言い聞かせようとしても、千尋は頑として受け入れず堂々巡りが続く。
「くしゅん!」
そんな言い争いが続いて、すっかり身体が冷え切った千尋がくしゃみを漏らす。
「そんな格好でいつまでもいたら風邪をひいてしまいますよ? 今日だけは一緒に入ってあげたらどうです?」
今帰ってきたのであろうか、にっこり笑いながら場を取り持つ風早に、那岐が渋々承諾した。
「……風邪ひくよ」
「うん!」
ふてくされたように促す那岐に、千尋は大喜びで隣に入る。
「あったか~い!」
「こんなに冷え切るまで突っ立ってんなんて、千尋も馬鹿だよね」
「那岐がダメだって言うからじゃない!」
決して広くはない湯船の中で、千尋の白く冷たい肌が触れ、那岐は眉をひそめてつっけんどんに言い放つ。
「では、俺は今のうちに夕飯の支度をしておきますね。しっかり温まるんですよ、千尋」
那岐には強制しておきながら、自分はさらりと逃げる風早に、恨みがましい視線を投げる。
「……夕飯は僕の好きなものにしてよね」
「那岐の好きなものってキノコと野菜ばっかりじゃない。私はスパゲッティがいいな!」
「はいはい。野菜たっぷりのキノコスパゲッティに、サラダもつけましょうね」
千尋に甘い風早は、那岐の注文を受け入れつつ結局千尋の好物へとすり替えてしまう。
「はぁ~どうしてこうみんな千尋に甘いんだろ……」
自分自身もそうであることに、多少の自覚がある那岐は深いため息をついた。