キスの答え

那千25

「ねえ、那岐はいつから私のこと好きだった?」
相変わらずの唐突な問いに、那岐は眉をしかめると仕事の手を止めずに聞き返す。

「なんでそんなこと知りたいわけ?」
「だって恋人になる前に、那岐からキスされたことがあったでしょ?」

この世界に戻る前の、共に暮らしていた頃の記憶に、那岐はため息をつくと千尋を見る。

「……千尋は好きでもない相手とキスするんだ?」

「そんなことしないよ。キスしたことなんて、那岐としかないもの」

「僕も同じだよ」

問いに対しての答えではないが、明確な想いを示せば千尋が驚いて、そうなんだと頬を染めて小さく呟く。

あの頃から自覚はあったが、自分を呪われた忌み子と思っていた那岐は、その想いを受け入れられなかった。
認めたら千尋まで失ってしまいそうで怖かったから。
それでも溢れる想いは時に行動に表れて、戯れのようなキスをしたこともあった。
千尋が知っているものも、知らないものも。

「満足した?」
「うん」
ちらりと視線を向ければ、嬉しそうに微笑む姿が目に入って、那岐は手元の竹簡を置くと歩み寄る。

「なら今度は僕の番だね」
「那岐?」
問われる前に顔を傾け唇を食めば、千尋の瞳が大きく見開かれた。

「目、閉じるもんじゃない?」
「だ、だって急に……っ」
抗議の言葉が続く前に再度重ねると、恥ずかしそうに目を閉じた千尋に内心で笑う。

キスをしたいと思ったのは千尋だけ。
キスをしたのも千尋だけ。
彼女だけがずっと那岐の特別だから。
千尋の問いに行動で教えると、今夜は寝るのが遅くなりそうだと、視界の隅に映る仕事を早めに済ませる算段を考え始めた。

20180917
Index Menu ←Back Next→