眩しすぎるのは太陽じゃなくて

那千16

一人部屋に取り残された那岐は、不満げなオーラを隠しもせず不貞腐れていた。
千尋の供をして常世にやってきたのは昨日。
それからずっと、こうして部屋に一人きりだった。

「まったく……」

友好関係が築かれたとはいえ、ついこの間までは争っていた敵国。
なのに千尋は、守り手である那岐を遠ざけ、アシュヴィンたちと何やらこそこそやっているのである。
勝手に王宮を歩き回るわけにもいかず、苛ただしげにベッドへ身を放り出した瞬間、今最も聞きたくない声が耳に届く。

「暇そうだな」
「……何? 千尋ならいないよ」
「知ってる」
つっけんどんに答えるも、余裕のある返答に逆にムッとさせられる。

「ついてこい」
「どうして僕が」
「龍の姫が呼んでるぞ」
簡潔な命令に反論するが、それをアシュヴィンが遮った。

「千尋が?」
怪訝に眉を寄せるも、これ以上は答えないとばかりに身を翻され、渋々とその後を追った。
そうして辿りついたのは、王宮から程近い碧の斎庭。

「那岐!」

アシュヴィンの弟であるシャニの傍で手を振る千尋に、那岐の不機嫌は最高潮になった。
自分が知らない千尋の居場所を知っていたアシュヴィン。
なぜか千尋と共にいるシャニ。
この2人との再会が嬉しかったのか、とてもはしゃいでいる千尋。

「見て! すごいご馳走でしょ? リブと昨夜から仕込んで作ったんだよ!」

「この花は僕。お姉ちゃんに頼まれて飾りつけたんだよ」

テーブルには所狭しと料理が並べられ、綺麗な花が飾られていた。

「……お茶会でもする気? それなら僕はパス」
「え? 那岐?」
返事も待たずに来た道を戻ろうとする那岐に、アシュヴィンがふぅとため息をついた。

「狭量な奴だな。少しは話を聞いたらどうだ?」
「お茶ならあんたが付き合えばいいだろ?」
「お姉ちゃんはあなたのために用意したんだよ!」
駆け寄り、怒ったように下から見上げるシャニを、那岐は訝しげに見つめた。

「Happy Birthday! 那岐」

笑顔の言祝ぎに言葉を失う。

「……中つ国じゃお前を祝ってやることも出来ないと、千尋が考えた贈り物だ」

「お姉ちゃん、昨日からずっと動き回ってたんだよ」

兄弟に教えられ、那岐は改めてセッティングされたテーブルを見た。
そこにあるのは、那岐の好物ばかり。
つい数年前までは当たり前のように口にしていた、千尋の手料理だった。

「ずっと一人にしててごめんね。でも、どうしても那岐を驚かせたかったの」

そうして微笑む千尋の目には、かすかなくま。
いつも女王として多忙な日々を過ごしている千尋が、自分のためにと寝る間も惜しんで用意してくれたのだ。
そんなことにも気づけず、アシュヴィンたちに嫉妬していた自分がどうしようもなく情けなかった。

「どれから食べる? これなんか上手に出来たんだよ」
皿へと料理を取り分ける千尋に、俯きながら歩み寄る。

「……本当に馬鹿だよね。くままで作ってさ」
「え! ほんと!?」
慌てて顔に手をやる千尋に苦笑する。

「ありがと」
短い謝礼に、千尋の笑顔が花開く。

「はい! 食べてみて!」
「……ちょっと焦げてる」
「え?」
「うそ」
「もうっ!」
和やかに語り合う2人に、アシュヴィンとシャニが顔を見合わせ去っていく。

「あ~あ」
「千尋を取られて悔しいか?」
「それは兄様じゃないの?」
一瞬目を瞠ったアシュヴィンが、くっくと肩を揺らせて弟の頭を撫で回す。

「違いない」

「もしもお姉ちゃんが泣かされたら、兄様がもらっちゃうとかどう?」

「そうしたら大好きなお姉ちゃんといつでも一緒にいられるからか?」

「うん!」

無邪気な弟に、アシュヴィンは苦笑しながら碧の斎庭の方へと視線をやる。

「そうだな……と言いたい所だが、あいつが離さんさ」
クールなようで、その実かなりの熱情を抱いていることはお見通しだった。

「ま、見守ってやるか」

実際、狭井君から千尋の結婚相手にと名も挙がったアシュヴィン。
あの2人が結ばれるには、まだまだ数多の困難が待ち受けているだろう。
それでも。

「それぐらい蹴散らしてもらわないと納得しないだろうよ」

神々しい黄金の光で、誰をも魅了していた千尋だから。
ふっと口の端をつりあげると、アシュヴィンはシャニを連れ添い王宮へと戻っていった。
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